研究課題/領域番号 |
25430095
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
亀谷 美恵 東海大学, 医学部, 講師 (50338787)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | トロフォブラスト / コモンマーモセット / 妊娠免疫 |
研究概要 |
今年度の実績は以下の通りである。(1)平成25年度はヒト・マーモセットトロフォブラストを分離精製する為に必要なマーカーであり、上皮間葉転換に関連した細胞表面分子としての候補を絞る事とした。TrkBは上皮間葉転換に正に働く細胞表面チロシンキナーゼであり、ヒト・マーモセットcDNAレベルで95%のホモロジーを持つ。そこで両者の胎盤組織を抗ヒトTrkB抗体で染色し、免疫組織化学およびフローサイトメトリーで解析したところ、両種の胎盤絨毛に強発現する事が明らかとなった。これらの結果、TrkBを用いてトロフォブラストの精製が可能である事が明らかとなった。(2)免疫抑制分子としては、マーモセットのHLA-GオーソログであるCaja-Gの遺伝子構造を共同研究者らと決定し、これらの胎盤における発現の解析を開始した。GFPトランスジェニック・コモンマーモセット胎盤をヒトHLA-A,B,Cに共通のエピトープを認識するモノクローナル抗体で免疫組織染色し、GFP染色(胎仔の組織を認識)と比較したところ、主として抗GFP抗体により染色されない母体組織がHLA抗体により染色された。この結果、コモンマーモセットにおいても、胎盤組織におけるclassical(HLA-A and Bあるいはそのオーソログ)-non-classical MHC class-I(HLA-G等)分子の発現パターンは類似である可能性が示唆された。(3)胎盤における免疫担当細胞の動態を明らかにする為、ヒト・マーモセット両胎盤血の解析を行ったところ、低いCD4T細胞の割合と高いHLA-G発現単球の割合の増加が観察された。以上の結果、トロフォブラストにおける上皮間葉転換関連分子と免疫抑制分子の指標が定まった事から、平成26年度はこれを元にトロフォブラストとリンパ球、単球等を共培養し、相互作用について検討する素地ができたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初平成25,26年度で以下の項目について目標を立てている。 (1)アロ特異的免疫抑制に関連するCaja-G遺伝子を同定する。:これについてはGFPマーモセット胎盤より母体由来細胞と胎仔由来細胞をフローサイトメトリーを用いて精製する方法を確立し、培養を開始した。あとはmRNAを採取し、Caja遺伝子について解析を行う所まで到達している。(2)マーモセット末梢血中のMHCダイマーを同定する。:これについては、末梢血より血漿成分を採取して凍結保存している。(3)CD56モノクローナル抗体作製:CD56遺伝子を組み込んだベクターは作製済み、これらについてHEK293、A20などの細胞株に遺伝子導入し、これを用いてマウスを免疫し、ハイブリドーマ作製を試みている。(4)リンパ球とHLAオーソログの相互作用により発現するサイトカインプロファイル解析: TrkBというトロフォブラストに発現する上皮間葉転換関連マーカーを選択することができ、ヒト抗体がフローサイトメトリー、免疫組織化学染色の両者に使用可能である事も明らかとなったため、相互作用が及ぼす上皮間葉転換という機構に対する影響について、焦点を絞って解析する事が可能となった。また、HLA-Gオーソログの遺伝子構造について明らかにし、発現解析が可能となった。現在共培養系を確立しているところである。(5)胎盤中のリンパ球の解析:これについては項目を挙げていなかったが、胎盤血、脱落膜、絨毛組織のリンパ球の状態について、ヒト胎盤との詳細な比較解析を行い、CD4T細胞の割合が少ない事、HLA-Gを高発現する単球が存在する事を確認した。今後、共培養によりこれらの細胞動態がどう変化するかを確認する指標となるところである。 以上、1年間で予定通りの進捗状況となっている。
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今後の研究の推進方策 |
現在まで、ほぼ予定通りに研究が進んでいるが、以下の点のみに変更を行う。 (1)胎盤の浸潤に関連する上皮間葉転換関連分子として、TrkBが胎盤絨毛に発現し、ヒトとのホモロジーが95%あることからヒト抗体が使用可能である事が明らかとなった。トロフォブラスト精製や共培養、また、免疫との相互作用の指標としてTrkBを用いる事としたため、発現アレイによる全般的な遺伝子探索を行う必要がないと考えられる。むしろTrkBに関連する遺伝子発現プロファイルをin silicoで確認し、解析すべき遺伝子を決定することとする。 (2)モノクローナル抗体としては、CD56についてはマウス抗血清で高力価が得られ、ハイブリドーマまでは作製できている。安定株を得るにはもう少し検討を要し、このまま作製を継続する予定である。一方、Caja-G遺伝子が明らかになった為、最も頻度の高い遺伝子産物について、モノクローナル抗体作製に着手し、できれば、これを用いて共培養系の研究を行いたいと考えている。 (3)重度免疫マウスにおける妊娠免疫系再構築については、当初、臍帯血由来CD34陽性細胞を移植して用いる予定であったが、パイロット実験により、臍帯血移植では免疫系の再構築には時間がかかる上に不完全である為、ヒト末梢血単核球を妊娠NOGに移植し、免疫担当細胞の動態を解析する、という方法に変更する予定である。マーモセット末梢血を妊娠NOGに移植する実験系でも同様に末梢血単核球を移植する事とする。 (7) 新たに、胎盤血中のCD4T細胞数が減少している事が示された事から、これらの細胞がアロ特異的活性化の後、アポトーシスを積極的に誘導されているのか、それとも単に胎盤への移入が少ないのかについてPI, Annexin V, 7AADなどによる染色およびフローサイトメトリーを用いてさらに解析を行いたいと考えている。
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