研究課題
基盤研究(C)
本研究は、インターロイキン9(IL-9)の持つ抗メラノーマ活性に着目し、独自に所有するメラノーマ自然発症モデルマウスを用い、未知の抗腫瘍因子を探索・同定することを目的としている。IL-9による抗メラノーマ作用には、マスト細胞を介する可能性が示唆されている。そこで当該年度、マウス骨髄細胞よりIL-3にて分化させた肥満細胞(BMMC)を取得し、IL-9にて賦活したBMMC馴化培地は、マウスメラノーマ細胞株に対して増殖抑制効果を有するか否か検討した。実験の結果、馴化培地によるメラノーマ細胞株の増殖抑制効果は見られなかった。このことから、IL-9処理されたBMMCの馴化培地には、直接メラノーマ細胞の増殖・生死に寄与する因子は存在しない可能性が示唆された。また、メラノーマ自然発症トランスジェニックマウスであるRET-Tgマウスに、IL-9を投与し、腫瘍周辺の浸潤細胞について組織切片標本を作成し調べた。検討の結果、IL-9投与群では、ギムザ染色陽性(青紫)の顆粒球が多く浸潤している知見が得られ、マスト細胞もしくは好塩基球の腫瘍組織への浸潤促進作用が示唆された。IL-9は腫瘍組織でのマスト細胞の浸潤または活性化を促し、何らかの抗腫瘍作用に寄与している可能性が考えられた。一方、BMMCにおけるIL-9応答遺伝子発現の変動をDNAマイクロアレイにて解析を行った。その結果、遺伝子オントロジー解析について、多重検定の補正後の結果では有意な変動遺伝子群は見出されなかったが、補正をかけないFisher’s exact testでの検定では、上昇遺伝子に関わる遺伝子遺伝子が146、減少遺伝子に関わる遺伝子は131あることが判った。今後、これらの遺伝子に着目し、IL-9とマスト細胞が関わる抗腫瘍機序について検討を重ねていく予定である。
3: やや遅れている
予定していた計画では、BMMC馴化培地より抗メラノーマ因子を見出すことを予定していたが、馴化培地単独では培養メラノーマ細胞株への増殖抑制効果が見られなかったことから、抗腫瘍因子同定作業は次年度にずれ込むこととなった。
In vitroでの検討:IL-9刺激により、BMMCからナチュラルキラー(NK)細胞の活性化を促すサイトカインが分泌されることを見出している。IL-9とマスト細胞が関わる抗腫瘍システムには、NK細胞が関与する可能性が考えられる。そこで平成26年度、IL-9賦活マスト細胞は、NK細胞の活性化を惹起するかどうか、詳細に検討を行う。In vivoでの検討:IL-9を分泌する新しいサブセットのCD4陽性細胞、Th9細胞が報告されている。平成26年度、Th9細胞がメラノーマ自然発症モデル(RET-Tgマウス)において、腫瘍の増殖を抑制するかどうか調べる。マウス脾臓細胞より未感作のナイーブT細胞を取得し、抗CD3,CD28抗体結合プレートにてTGF-betaとIL-4、抗IFN-gamma抗体を添加した培地で培養すると、IL-9産生性のTh9が得られる。これを、腫瘍発症直後のRETトランスジェニックマウスへ養子移植し、その後の腫瘍の大きさを計測する。また、IL-9投与したRET-Tgマウスの腫瘍組織周辺の組織切片標本を作成し、NK細胞の浸潤について、対照マウスと比較する。
同位体標識試薬(iTRAQ)を用いたディファレンシャルディスプレイ分析を予定していたが、サンプルとして利用するIL-9処理したBMMC馴化培地による直接のメラノーマ細胞増殖抑制効果を確認できていないため当該実験を行うことができず、消耗品を繰り越すこととなった。これまでの結果から、メラノーマ細胞の増殖抑制は、IL-9そのものや、IL-9で処理されたBMMC馴化培地に含まれる液性因子による直接の効果ではなく、抗腫瘍活性を有する何らかの細胞を介して行われることが示唆された。細胞障害性T細胞やNK細胞といった免疫系細胞の賦活が考えられる。そこで、細胞障害性試験を行い、IL-9処理したBMMC馴化培地による細胞障害性亢進効果を検討した上で、あらためてディファレンシャルディスプレイ分析を予定する。また、研究計画に盛り込んだTh9細胞によるRET-Tgマウスの抗腫瘍効果の検討は予定通り行う。
すべて 2014
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Molecular cancer research
巻: 12 ページ: 440-446
10.1158/1541-7786