研究課題/領域番号 |
25430096
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
川本 善之 中部大学, 生命健康科学部, 准教授 (10410664)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | メラノーマ / IL-9 / マスト細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は、インターロイキン9(IL-9)の持つ抗メラノーマ活性に着目し、独自に所有するメラノーマ自然発症モデルマウス(RET-Tg)を用い、未知の抗腫瘍因子を探索・同定することを目的としている。本年度、腫瘍を発症したRET-Tgマウス(1年齢)に対し、IL-9を腹腔内投与し(2日おき、4週間)、抗腫瘍効果に関する影響の有無について検討を行った。まず、脾臓、胸腺におけるリンパ球への影響について調べたところ、胸腺におけるCD4,CD8マーカー解析においては顕著な差は見られなかったが、脾臓において、IL-9投与マウスではCD3陰性CD45R陽性細胞、およびCD8陽性T細胞の割合がそれぞれ増加したことが分かった。次に、リンパ節、脾臓の薄切組織切片を作製し、HE染色およびマッソン・フォンタナ染色にて調べたところ、IL-9投与マウスではメラニン含有細胞が顕著に増加した。これはF4/80陰性であったことから単球・マクロファージではなく、メラノサイトもしくは何らかのメラニンを貪食した細胞である可能性が考えられた。脾臓において、IL-9投与によりc-Kit陽性FceRI陽性のマスト細胞の割合が増加した。IL-9によるNK細胞の賦活が考えられたが、腫瘍組織でのNK細胞の有意な増加は見られなかった。一方、IL-9投与により脾臓、リンパ節重量が大きく低下したが、この意義についてはさらに検討を進める必要がある。ここまでの結果から、メラノーマ自然発症モデルを用いた本実験により、IL-9はマスト細胞や他の細胞から分泌される何らかのIL-9応答物質が、貪食細胞やCD8陽性T細胞を活性化させ、抗腫瘍に寄与する可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
IL-9によるNK細胞の活性化を介する抗腫瘍効果の検討を予定通り行った結果、IL-9によるNK細胞を介する抗腫瘍効果については考えにくいことが分かった。一方、RET-Tgマウスで、メラノーマを自然発症するまでの時間が延長しており、投与したIL-9の抗腫瘍効果の検証が現在も進行中であるため、予定したTh9細胞の移植検討が行えなかった。
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今後の研究の推進方策 |
IL-9投与したRET-Tgマウスの腫瘍、寿命について観察を行っていく。また、IL-9を分泌CD4陽性細胞のTh9細胞がRET-Tgマウスにおいて、腫瘍の増殖を抑制するかどうか調べる。IL-9投与によるリンパ組織重量の減少について追試し、その意義について検討する。IL-9の定期的な腹腔内投与は期待される薬効レベルのoverdoseとunderdoseを繰り返し、安定性と効率性に欠ける。そこで体内埋め込み式の浸透圧ポンプを用いた持続的IL-9処理システムを活用し、RET-Tgおよびメラノーマ移植ヌードマウスモデルそれぞれにおける抗腫瘍効果を確認し、IL-9作動性の抗腫瘍因子を見出す。
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次年度使用額が生じた理由 |
IL-9作動性因子を見出すため、同位体標識試薬を用いたディファレンシャルディスプレイ分析を予定していたが、IL-9の抗腫瘍効果そのものを確認することが先決であったため実施を見送り、消耗品費用を繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでの結果から、メラノーマ細胞の増殖抑制は、IL-9そのものや、IL-9で処理された骨髄細胞由来マスト細胞(BMMC)の馴化培地に含まれる液性因子による直接の効果はないこと、また、RET-Tgにおいて、NK細胞の活性化を介する抗腫瘍効果がある可能性も低いことが考えられた。一方、IL-9によるCD8陽性の細胞障害性T細胞の活性化や、それに貪食細胞が関与している可能性が示唆されたことから、IL-9処理したBMMC馴化培地によるCD8陽性細胞の賦活効果の確認と、その作動性因子の同定に向けてあらためてディファレンシャルディスプレイ分析を予定する。
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