研究課題/領域番号 |
25430106
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊佐山 浩通 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (70376458)
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研究分担者 |
伊地知 秀明 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (70463841)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 膵癌 / 腫瘍間質相互作用 / デスモプラジア / 線維芽細胞 / CXCケモカイン |
研究実績の概要 |
我々は、膵癌の臨床像をよく近似するマウス膵発癌モデルを既に樹立している(膵臓特異的Kras活性化+TGF-beta II型受容体ノックアウト)。このマウスは、膵癌の組織学的特徴である著明な間質の増生・線維化(desmoplasia)を示す。膵癌の生物学的悪性度の高さは、このdesmoplasiaの存在と強く相関していると考えられ、癌細胞と線維芽細胞との相互作用が膵癌の発育・進展に促進的に働いていることを我々も一部明らかにしている。本研究の目的はこの膵癌の腫瘍間質相互作用において線維芽細胞が示す応答の全体像を臨床像に近い膵発癌マウスモデルで検討し、癌関連線維芽細胞の特徴を正常膵の線維芽細胞との対比により明らかにし、膵癌の微小環境の病態理解に基づいた、より効果的な膵癌の治療法を開発することである。 本研究ではこれまでに膵癌細胞がCXCR2のリガンドであるCXCケモカインを特徴的に産生分泌し間質に作用していること、膵癌組織の線維芽細胞がそれに対し複数の炎症性サイトカインを産生して応答していること、膵癌細胞と膵癌関連線維芽細胞は、それぞれが分泌する因子によりお互いに浸潤能・遊走能を促進しており、それは同じCXCR2リガンド依存的であることを示してきた。 H26年度は、本モデルマウスとCXCR2ノックアウトマウスを交配し、CXCR2ヘテロノックアウトの状態での膵発癌状況を観察し、ヘテロノックアウトでは有意に生存期間が延長することがわかった。また正常膵の線維芽細胞と膵癌関連線維芽細胞ではその遺伝子発現プロファイルや癌細胞への応答としての遺伝子発現変化に大きな相違があることも明らかとなった。すなわち、膵癌の微小環境において線維芽細胞は癌関連線維芽細胞としての性格を獲得し、CXCR2リガンドの産生を通じて膵癌細胞と互いに引き付け合い、これが膵癌の浸潤や転移と関係していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膵発癌モデルマウスをCXCR2ノックアウトマウスと交配し、CXCR2ヘテロノックアウトの状態における膵発癌の状況を観察し、ヘテロノックアウトでは生存期間が有意に延長することが示された。また、正常膵における線維芽細胞と膵癌組織から分離した線維芽細胞では、ベースとなる遺伝子発現プロファイルおよび癌細胞からの刺激に対する遺伝子発現変化のプロファイルに大きな相違がみられるという結果も得られた。
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今後の研究の推進方策 |
生命予後に改善のみられたCXCR2ヘテロノックアウトの状態での膵癌組織と、CXCR2が野生型の膵癌組織との相違を病理組織学的に解析し、膵癌微小環境において膵癌進展に寄与している因子を検討し、より効果的な治療の標的を見出す。 正常膵の線維芽細胞と膵癌関連線維芽細胞の遺伝子発現プロファイルの相違および機能的相違から、膵癌におけるデスモプラジアが膵癌進展に寄与するメカニズムを解析し、膵癌組織を用いた検討と統合することにより、膵癌微小環境をターゲットとした新たな分子標的治療を開発する。
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