研究課題
SOX17は、SOXファミリーに属する転写因子である。SOX17は多くのヒト大腸がんで、発現が低下していることから、がん抑制遺伝子と考えられていた。ApcΔ716マウスの腸管に自然発症するポリープで、Apc遺伝子の欠損による腫瘍の発生初期からSOX17の発現が誘導されることを発見して報告した。また、良性腫瘍から浸潤を伴う悪性腫瘍に進展すると、SOX17の発現は顕著に低下することも観察し、以上の結果から、SOX17は腫瘍発生過程で促進性に、悪性化過程で抑制性に作用する可能性が考えられた。本研究では、SOX17遺伝子コンディショナルノックアウトマウス(SOX17fl/fl)を用いて、ApcΔ716マウスとの交配実験からSOX17の腸管腫瘍発生への関与を解析している。腸管上皮特異的に遺伝子欠損させるために、villin-CreERマウスを使用した。これまでに、ApcΔ716/SOX17fl/fl/Villin-CreER複合マウスを作製してポリープ形成について解析したが、SOX17遺伝子の欠損による小腸での腫瘍発生への影響は認められなかった。一方で、結腸ポリープ数はSOX17遺伝子欠損により有意に増加した。また、SOX17遺伝子欠損により結腸粘膜が肥厚する傾向が認められたため、マウスの解析例数を増やして検討することとした。また、腫瘍発生と炎症とは密接に関わっていることから、炎症依存的に腫瘍を結腸に発症するAOM/DSSの実験系を用いて検討し、この結果、SOX17遺伝子欠損によっても、AOM/DSS投与による腫瘍発生の頻度、大きさは変化しなかった。さらに、SOX17の腫瘍悪性化への影響を観察するため、ApcΔ716/Tgfbr2fl/fl/SOX17fl/fl/Villn-CreERマウスを作製し、ポリープの浸潤過程にSOX17が関与しているかについての検討を進めている。
2: おおむね順調に進展している
昨年度までに、小腸での腸管ポリープ発生にSOX17が関与していないことを明らかにし、また、炎症依存的に発症する腫瘍形成にもSOX17は関与していないことを明らかにした。そこで、今年度は、Apc変異とTGF-βシグナルの遮断によって発症する悪性化浸潤ポリープの形成にSOX17が関与しているかを、ApcΔ716/SOX17fl/fl/Villin-CreER複合マウスを作製して検討した。その結果、小腸ではSOX17遺伝子が欠損しても浸潤ポリープの形成が認められた。これまでの報告から、SOX17が腫瘍形成に促進的、あるいは抑制的に働くかは不明であったが、本研究によるこれまでの結果から、SOX17は小腸の腫瘍発生過程および浸潤過程のどちらにも関与していない可能性が示唆された。
ApcΔ716マウスで発生するポリープは、90%以上が小腸で発症するが、結腸にも少数の腫瘍ポリープが発症する。これまでの実験から結腸に発生するポリープのみにSOX17が関与している可能性が示唆されたため、マウスの数を増やして結腸ポリープの発生における影響に焦点を絞って検討する。また、腸管の腺管を単離して、培養するオルガノイド技術が確立できたため、この培養法を用いた検討を行う。ポリープ形成では変化は認められなくても、オルガノイド培養法によって、SOX17遺伝子欠損による上皮細胞の種々の形質変化を解析する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
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