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2013 年度 実施状況報告書

癌におけるPTENリン酸化異常の分子機構とその役割の解明

研究課題

研究課題/領域番号 25430113
研究種目

基盤研究(C)

研究機関宮崎大学

研究代表者

中畑 新吾  宮崎大学, 医学部, 助教 (80437938)

研究期間 (年度) 2013-04-01 – 2016-03-31
キーワード成人T細胞白血病 / NDRG2 / PTEN / AKT / リン酸化
研究概要

これまでに成人T細胞白血病(ATL)の統合的ゲノム解析から癌抑制遺伝子候補としてNDRG2を単離し、ゲノム・エピジェネティック変化によるNDRG2の不活化は、PTEN C末端のリン酸化(Ser380/Thr382/Thr383, STT)を誘導し、PI3キナーゼ(PI3K)-AKT情報伝達経路の活性化を導くことを示した。さらに、NDRG2はPP2Aホスファターゼと結合しPTENにリクルートすることで、PTEN-STTの脱リン酸化に関与することを明らかにした(Nature Communications.2014)。
そこで、PTENリン酸化異常によるPI3K-AKT活性化機序を解明するため、PTENリン酸化を制御する上流経路について検討した。NDRG2欠失変異体を用いた免疫共沈降および過剰発現実験より、NDRG2のC末端領域がPP2Aとの結合、PTENの脱リン酸化に重要であることがわかった。そのC末端配列には、Ser/Thrタンパク質キナーゼによるリン酸化部位が存在しており、その変異解析からNDRG2 Ser332のリン酸化がPP2Aとの結合やPTENの脱リン酸化に必須の役割を果たしていることが示された。NDRG2 Ser332のリン酸化を担うキナーゼとして、AKT, SGK1, S6K1などが候補として知られるが、これらのうちATL細胞では、SGK1がNDRG2 Ser332をリン酸化することがわかり、さらにSGK1はPI3K下流の分子PDK1によりリン酸化・活性化されることから、PI3K-SGK1-NDRG2ループは、PI3K経路の負のフィードバック機構の一つとして機能することが示唆された。
また、PTEN-STTのリン酸化を担うキナーゼを同定するため、質量分析による結合タンパク質の解析を行ったところ、Ser/Thrタンパク質キナーゼSCYL2をその候補として得た。ATL細胞においてSCYL2は高発現しており、shRNAによるSCYL2の発現抑制はPTEN-STTの脱リン酸化およびAKTの活性化を抑制したことから、ATL細胞ではSCYL2高発現とNDRG2発現低下によりPTEN-STTの恒常的なリン酸化がもたらされているものと考えられた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は、NDRG2によるPTEN-STT脱リン酸化の制御機構およびPTEN-STTをリン酸化するキナーゼを明らかにし、ATLにおけるこれらの制御異常の分子機構を明らかにすることを目的に、NDRG2によるPTEN-STTの脱リン酸化を修飾する上流シグナル伝達経路及び、PTEN-STTをリン酸化するキナーゼについて検討を行った。
ATL細胞株を用いた解析から、PI3Kの負のフィードバック経路によりPTEN-STTの脱リン酸化が起こることが示され、PI3Kシグナル伝達経路におけるPTEN-STTリン酸化の役割が初めて明らかになった。また、PTEN-STTをリン酸化するタンパク質としてCK2などのキナーゼが考えられていたが、ATL細胞株を用いた解析から別のキナーゼの存在が推測された。ATL細胞抽出液のPTEN免疫沈降産物を用いた質量分析から、PTEN-STTのキナーゼ候補としてSCYL2を単離した。ATL細胞株および急性型ATL患者由来のATL細胞においてSCYL2タンパク質の発現上昇を確認し、shRNAによりその発現を抑制した結果、PTEN-STTのリン酸化の減少、AKT活性化の低下がみられたことから、SCYL2がPTEN-STTのキナーゼであることが示唆された。現在、組換えタンパク質を用いた試験管内キナーゼアッセイにより、SCYL2が直接PTENをリン酸化するかについて検討を行っている。
これらの結果は、ATL細胞においてキナーゼ活性化によるリン酸化とNDRG2発現低下による脱リン酸化の低下がPTEN-STTの恒常的なリン酸化を引き起こしているものと示唆され、癌におけるPTEN-STTリン酸化の制御異常の分子基盤が明らかになったものと考えられる。以上は、本年度の課題について概ね成果が得られたものと思われる。

今後の研究の推進方策

PTEN-STTのリン酸化にSCYL2が関わることが分かったことから、次にSCYL2がPTEN-STTを直接リン酸化する酵素であるかを検証する。また、ATL細胞においてSCYL2が高発現する原因やSCYL2の上流キナーゼ分子について検討する。
PTEN-STTに対するリン酸化酵素としての検証は、PTEN, SCYL2タンパク質それぞれを大腸菌で作製し、試験管内でキナーゼアッセイを行う。SCYL2高発現の機序については、遺伝子増幅などのジェネティックな変化とともに転写因子によるプロモーターの活性化などに着目して検討を進める。これまでにNDRG2の発現低下によるPTEN-STTリン酸化の上昇は種々の固形癌でみられることを明らかにしたことから、SCYL2についても様々な固形がんで検討し、PTEN-STTリン酸化やAKT活性化との関連性を明らかにし、NDRG2の発現低下とSCYL2高発現からもたらされるPTENリン酸化異常に起因したPI3K-AKT活性化の分子機序が癌で多く見られる現象であるかを明らかにする。
また、癌発症におけるSCYL2の役割を生体内で明らかにするために、SCLYL2トランスジェニックマウスを作製し、マウス生存率や腫瘍形成などを評価する。NDRG2欠損マウスは高頻度でTリンパ腫を含む様々な癌を発症することを見出したことから、NDRG2欠損マウスと掛け合わせ、癌発症が促進されるか等についての検討も行う。これらの解析と共にPTEN-STTのリン酸化に対する阻害剤のスクリーニングを行い、PI3K-AKT経路を標的にした新規治療薬の検討を行う。PI3KやAKTを標的にした既存の阻害剤との比較検討を行い、ATL細胞に対する増殖抑制や殺傷効果など、その有効性を評価する。

次年度の研究費の使用計画

本年度は、プラスチック器具や細胞培養関連試薬等の消耗品費の支出が最小限に抑えられた為、1,600千円のうち未使用分320千円が生じた。
次年度は動物実験を計画していることから、マウスの購入費やマウス維持費等に初年度の残額を使用する予定である。また、化合物スクリーニングに必要なサンプル、試薬代等の費用に計上する予定である。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2014 2013

すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (3件)

  • [雑誌論文] Loss of NDRG2 expression activates PI3K-AKT signalling via PTEN phosphorylation in ATLL and other cancers2014

    • 著者名/発表者名
      Shingo Nakahata, Tomonaga Ichikawa, Phudit Maneesaay, Yusuke Saito, Kentaro Nagai, Norio Yamakawa, Makoto Hamasaki, Issay Kitabayashi, Yasuhito Arai, Yae Kanai, Tomohiko Taki, Takaya Abe, Hiroshi Kiyonari, Kazuya Shimoda, Hiroshi Shima, Masafumi Taniwaki, Ryoji Yamaguchi, Kazuhiro Morishita
    • 雑誌名

      Nature Communications

      巻: 5 ページ: 1-15

    • DOI

      10.1038/ncomms4393

  • [学会発表] ATLにおけるNDRG2発現低下はPTEN不活性化に伴う恒常的なPI3K情報伝達系活性化を導く2013

    • 著者名/発表者名
      中畑新吾、市川朝永、斎藤祐介、新井康仁、滝智彦、谷脇雅史、森下和広
    • 学会等名
      第75回日本血液学会学術集会
    • 発表場所
      ロイトン札幌、さっぽろ芸文館、札幌市教育文化会館
    • 年月日
      20131011-20131013
  • [学会発表] 癌細胞におけるNDRG2の不活性化はPTENの恒常的なリン酸化を促し、PI3K/AKT経路の活性化を引き起こす2013

    • 著者名/発表者名
      中畑新吾、市川朝永、斎藤祐介、新井康仁、滝智彦、谷脇雅史、森下和広
    • 学会等名
      第72回日本癌学会学術総会
    • 発表場所
      パシフィコ横浜
    • 年月日
      20131003-20131005
  • [学会発表] NDRG2 plays a pivotal role in ATLL leukaemogenesis by regulating the PTEN-mediated PI3K/AKT signalling pathway.2013

    • 著者名/発表者名
      Shingo Nakahata, Tomonaga Ichikawa, Yusuke Saito, Yasuhito Arai, Tomohiko Taki, Masafumi Taniwaki, Kazuhiro Morishita
    • 学会等名
      16th International Conference on Human Retrovirology: HTLV and Related Viruses.
    • 発表場所
      Montreal, Canada
    • 年月日
      20130626-20130630

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公開日: 2015-05-28  

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