研究実績の概要 |
成人T細胞白血病 (ATL)において、NDRG2発現低下は、PTEN C末端(Ser380/Thr382/Thr383, STT)のリン酸化を介して、PI3K/AKT経路の活性化を促進することを同定し、NDRG2は、PP2AをPTENにリクルートし、PTEN-STTを脱リン酸化することでPI3Kの負の制御因子として働くことを明らかにした。PI3Kの標的キナーゼの一つであるSGK1はNDRG2 Ser332をリン酸化し、PP2Aとの結合の促進、及びPTEN-STTの脱リン酸化を誘導する負のフィードバック制御機構が存在し、正常細胞では、低酸素下でNDRG2発現が上昇し、これらの機構によりPI3K/AKT経路の活性化が制御されることを見出し、白血病・癌発症過程において、NDRG2発現低下に伴う低酸素応答機構の破綻が何らかの役割を担っている可能性が推測される。 実際、正常細胞由来HaCaT細胞株の低酸素処理は、NDRG2発現を誘導し、PTEN-STTリン酸化の減少、及びAKT活性化の低下が起こり、細胞増殖が抑制されるのに対して、プロモーターメチル化によりNDRG2発現が損失するATL細胞株では、NDRG2発現の誘導は起こらず、PTEN及び AKTとも高リン酸化状態を保ち、高い増殖能が見られた。このことから、NDRG2発現の不活化は、低酸素環境における細胞増殖応答の破綻を導き、癌細胞の生存・増殖に寄与することが示唆され、さらに、造血幹細胞(HSCs)においてNDRG2発現が亢進しており、HSCsでは低酸素環境とPI3K経路の抑制が必須であることから、その低酸素を介したHSCsの維持機構おけるNDRG2の機能が推測され、今後の重要な研究課題の一つである。
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