研究課題/領域番号 |
25430124
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
中村 康之 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, 研究員 (90569063)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | p53 / ミトコンドリア / ROS / 腫瘍抑制 |
研究概要 |
我々は、Mieapタンパク質が不良なミトコンドリア内に蓄積した酸化タンパク質を除去することにより、ミトコンドリアのATP産生能を改善し、ROS産生を抑制するという全く新しいミトコンドリア品質管理機能を見出した。さらに、動物実験やヒトがん組織を用いた解析から、Mieapによるミトコンドリア品質管理機構が、抗腫瘍効果に重要な役割を果たしていると示唆された。本研究課題では、Mieapノックアウトマウスにおける腫瘍の発生及び進展過程にMieap機能がどのように影響するかを解析し、p53/Mieap制御性ミトコンドリア品質管理機構による、全く新しいがん抑制のメカニズムとその役割を解明する。はじめに、Mieapノックアウトマウスの発癌及び進展について観察を行ったが、野生型マウスとの違いは見られなかった。マウス各主要臓器におけるMieapタンパク質の発現を解析したところ、大脳上衣細胞、肺胞粘膜上皮細胞、精子尾部、卵管采といった鞭毛細胞において、p53非依存的なMieapタンパク質発現が観察された。この結果から、定常状態の組織においてMieapはほとんど発現していないことが明らかとなった。次に、大腸がんモデルマウスAPCMin/+におけるMieap欠損による腫瘍形成及び進展過程への影響について検討したところ、Mieap遺伝子の片アレル欠失により、APCMin/+マウスの寿命が著しく短縮した。そこで、これらのマウスの腸管ポリープ数及びそのサイズ計測、及び主要臓器の組織化学的解析と血液検査を行っている。これらのマウスの比較解析により、Mieapタンパク質によるがん抑制メカニズムを詳細に解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、Mieapの抗腫瘍効果を実験動物で再現し、そのがん抑制メカニズムを解析することである。はじめにMieapノックアウトマウスにおける発癌及び進展を観察したが、野生型マウスと比較して大きな差異は見られなかった。一方、大腸がんモデルマウスAPCMin/+のMieap遺伝子欠損マウスでは、APCMin/+マウスと比較して著しい寿命短縮が見られたことから、APCMin/+マウスを用いることで、Mieapによる大腸腫瘍の発生及び進展過程への影響について検討を行うことにした。このような表現型を示す発癌モデルマウスが得られたことは、本研究課題を達成する上で非常に意義深い。現在までにMieap遺伝子を片アレルあるいは両アレル欠失したAPCMin/+マウスを作製、繁殖させ、Mieapのがん抑制メカニズムの解明に向けて様々な解析を行っていく。対照となるAPCMin/+マウスについては、17週齢時における腸管ポリープ数およびサイズ測定、各主要臓器の組織化学的解析及び血液解析を完了している。今後、Mieap遺伝子を欠損させたAPCMin/+マウスを同様に解析することにより、Mieapによる抗腫瘍効果を詳細に解析することが可能である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、Mieap遺伝子の欠損に伴って寿命が著しく短縮される大腸がんモデルマウスAPCMin/+を用いることにより、大腸腫瘍の発生及び進展過程におけるMieapのがん抑制メカニズムを解明することを目的にしている。現在までに、Mieap遺伝子を欠損させたAPCMin/+マウスの作製、繁殖を行い、対照となるMieap野生型APCMin/+マウスについては、腸管ポリープを中心として解析を終えており、今後はMieap遺伝子欠損APCMin/+マウスの結果を元にMieap機能を明らかにする。以上の実験では、自然発生的な腫瘍を解析対象にしているが、APCMin/+マウスの腸管ポリープの好発部位は、ヒトと異なり、主に小腸でありこと、大腸では腺癌の前駆病変は観察されるが腺癌発生頻度は低いことから、発癌およびその進展過程におけるMieap機能を解析するためには、APCMin/+マウスにおける前駆病変から人為的に腺癌を発生させることで必要がある。そこで、これらのマウスに放射線照射あるいは大腸起炎物質(DSS)等の投与により進展する大腸(小腸)発癌過程におけるMieapの機能を解析することを予定している。得られたサンプルは組織化学的に検討、癌への進展、Mieap発現、ROS産生量、ミトコンドリア量、血管新生、アポトーシスの程度について詳細に解析を行う。さらに各組織を細胞レベルで電子顕微鏡(ミトコンドリア、リソソームなど光学顕微鏡では観察できない微小構造解析)により詳細に解析する。また、ポリープ形成や腺癌への進展過程におけるマウスMieap遺伝子のプロモーター領域メチル化をMieap発現と合わせて解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、本研究課題において使用するマウスの作製を主に行った。マウス作製では、大腸がんモデルマウスあるいはMieapノックアウトマウスの保存胚からの固体復元、系統維持に必要なマウスの購入等に研究費を使用した。実際のマウス作製は、動物実験施設における当該マウスの交配を繰り返すことで達成した。そのため、今年度の研究費は主にそれらマウスの維持及び一部作製したマウスの解析に使用するに留まったため、次年度使用額が生じた。 本年度では、主に本研究課題で使用するマウスの作製に研究費を充てたが、次年度は作製したマウスを用いた各種実験(発癌処理)を行い、得られたアンプルを様々に解析(光学及び電子顕微鏡観察試料の作製と観察、免疫組織化学的解析、血液などの試料解析)することで、Mieapタンパク質の腫瘍抑制効果についてその機構解明を進めて行く予定である。
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