研究概要 |
大腸がん細胞に上皮成長因子(EGF)と線維芽細胞増殖因子(bFGF)で上皮間葉転換(EMT)を誘導すると、転写因子c-Mycの活性が亢進すると共に転写因子CDX2の活性が抑制されることによって、シアリルルイス糖鎖の発現が著明に増加する(Sakuma K, et al, PNAS, 2012)。この成果に基づき、平成25年度は、EMT下での両転写因子の活性制御機序を研究した。 1. EMT下でのc-Mycの翻訳後修飾および転写共因子の変化 先述の論文の中で、EMT下ではc-MycのSer62のリン酸化が活性亢進の一因である可能性を報告した。本研究課題では、このリン酸化を制御する酵素の同定を進めている。現時点では、EMT下で特異的に活性化するキナーゼの関与が示唆されるが、さらなる検証が必要である。また、リン酸化以外の翻訳後修飾によるc-Mycの活性亢進機序を示唆する結果を得たが、同様に検証段階である。 並行して、EMT下におけるc-Mycの転写共因子についても研究をおこなっている。ヒト大腸がん細胞株のHT29にHA-tag標識したc-Mycを遺伝子導入し、EMTを誘導した。回収したタンパクを抗HA-tag抗体で免疫沈降し、共沈タンパクを質量分析で同定した。同定したタンパク群の中で、既知の機能面から特に注目されたいくつかのものについて、現在詳しい検証を進めている。 2. EMT下でのCDX2の転写レベルの発現抑制 EMTと関係の深い転写因子SNAI1(SNAIL)は、CDX2の発現を転写レベルで抑制することが報告されている。本研究においても、HT29細胞にEMTを誘導するとSNAI1の発現が増加することから、CDX2の発現抑制への関与を検証中である。
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