研究実績の概要 |
研究代表者は、大腸がん細胞にin vitroで上皮間葉転換(EMT)を誘導すると、がん細胞の血管外脱出を媒介することで知られる細胞膜表面接着分子であるシアリルルイス糖鎖の発現が、転写因子c-Mycの活性亢進を介して増加することを報告した(Sakuma K, et al; PNAS, 2012)。本研究課題では、この現象を制御する分子の同定を通して、転移抑制薬の標的分子を見出すことを目標に研究を進めてきた。 平成27年度の主要な成果として、大腸がん細胞のEMT誘導時と非誘導時でc-Mycと結合する遺伝子群が劇的に変化することを見出した。ChIP-on-Chip法によって同定した遺伝子群の中で、特に転移への関与が大きいものについて検証を進めている。また、このEMT下特異的なc-Mycの機能変化に対して、従来より知られているSer62のリン酸化の寄与は予想外に小さく、他の修飾がより重要である可能性がin vitroの実験から示唆された。一方、in vivoでEMTを検出する実験系構築のため、複数の大腸がん細胞株を用いて、ヌードマウスへの移植の予備検討をおこなった。細胞種に関係なく、多くの個体で原発巣(移植部位)に顕著な壊死を生じ、EMTの安定的な観察が困難であると判断した。 以上の結果から今後は、EMT下でのc-Mycの特異的修飾とその機序、ならびにその生理的意義について、主にin vitroの実験系を中心に解明を進めていきたい。
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