スフィンゴ脂質類の新規腫瘍マーカーとしての臨床検討

2013 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 25430135
• 研究種目: 基盤研究(C)
• 研究機関: 東北大学
• 研究代表者: 富岡 佳久 東北大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (00282062)
• 研究期間 (年度): 2013-04-01 – 2016-03-31
• キーワード: 腫瘍マーカー

研究概要

本研究は、質量分析法を用いた高感度スフィンゴ脂質定量系によって、健常者及び各がん患者のスフィンゴ血漿中スフィンゴ脂質類を定量分析し、特にスフィンゴシン－１－リン酸（S1P）の新規腫瘍マーカーとしての臨床応用性を検討するものである。S1Pは、赤血球や血小板から放出されることを考慮し、採血後迅速に氷冷・遠心後に得られた血漿試料とし、インフォームドコンセントを得た健常者10例、食道癌6例、胃癌5例、肉腫患者3例の計24試料を測定対象とした。その結果、今回の測定における平均S1P血漿中濃度は、健常者（410±67 nM）、食道癌（620±129 nM）、胃癌（484±151 nM）、肉腫患者（491±106 nM）であった。食道癌患者血漿S1P濃度は健常者と比較して有意に高値であったが、他の癌腫では有意差を認めなかった。続いて、がん患者血漿成分中の疾患マーカーの探索を目的としてLC/HRMSによる非標的血漿メタボローム解析手法の構築を行った。その結果、測定の成否を評価するために、試料測定前に10回、試料注入5回毎に1回QC試料の測定を実施する方法を構築した。試料をLC/HRMSで測定して得られたデータSIEVEで処理した後HMDBと照合した。フレーミング処理後の解析結果をエクセルファイルに変換し、保持時間とm/zにて紐づけし、検出イオンリストを生成した。健常人血漿試料8例とがん患者血漿試料11例について、非標的メタボローム解析を行ったところ、がん患者血漿のリゾホスファチジルコリン（LPC18:2）が健常人血漿に比較して低値を示すことを発見した。そこで、LPC18:2の精密測定法を構築し、改めてがん患者血漿と健常人血漿中のLPC18:2濃度を評価したところ、がん患者血漿中LPC18:2は健常人に比較して有意に低値を示すことが明らかになった。以上より、今回構築した非標的LC/HRMS法は病勢マーカーを探索するための有用な手法であると考えられた。

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

高精密質量分析装置を活用するがん患者血漿中スフィンゴ脂質類の病勢解析腫瘍マーカーとしての臨床検討に関しては、概ね順調に進んでいるが、他のエイコサノイドやリゾリン脂質等の脂質メディエーターの微量定量系の構築が進まなかった。その代わりにLC/HRMSによる非標的メタボローム解析手法の構築を進めた。

今後の研究の推進方策

平成２５年度に達成できなかった他のエイコサノイドやリゾリン脂質等の脂質メディエーターの微量定量系の構築を進めると共にがん以外の疾患患者の臨床検体における脂質メディエーターの分布の網羅的解析を進める。

研究成果

• [雑誌論文] Overexpression of autotaxin, a lysophosphatidic acid-producing enzyme, enhances cardia bifide induced by hypo-sphingosine-1-phosphate signaling in zebrafish embryo (2014)
  • 著者名/発表者名: Keita Nakanaga, Kotaro Hama, Kuniyuki Kano, Takanao Sato, Hiroshi Yukiura, Asuka Inoue, Daisuke Saigusa, Hidetoshi Tokuyama, Yoshihisa Tomioka, Hiroshi Nishina, Atsuo Kawahara, Junken Aoki
  • 雑誌名: Journal of Biochemistry 巻: 155 ページ: 235-241
  • DOI: 10.1093/jb/mvt114
  • 査読あり
• [雑誌論文] A validated quantitative liquid chromatography-tandem quadrupole mass spectrometry method for monitoring isotopologues to evaluate global modified cytosine ratios in genomic DNA. (2014)
  • 著者名/発表者名: Makoto Tsuji, Hironori Matsunaga, Daisuke Jinno, Hiroki Tsukamoto, Naoto Suzuki, Yoshihisa Tomioka
  • 雑誌名: Journal of Chromatography B 巻: 953-954 ページ: 38-47
  • DOI: 10.1016/j.jchromb.2014.01.050
  • 査読あり
• [雑誌論文] MD-2-dependent human Toll-like receptor 4 monoclonal antibodies detect extracellular association of Toll-like receptor 4 with extrinsic soluble MD-2 on the cell surface (2013)
  • 著者名/発表者名: Hiroki Tsukamoto, Hideyuki Ihara, Ritsu Ito, Ippo Ukai, Naoto Suzuki, Masao Kimoto, Yoshihisa Tomioka, Yoshitaka Ikeda
  • 雑誌名: Biochem. Biophys. Res. Comm 巻: 440 ページ: 31-36
  • DOI: 10.1016/j.bbrc.2013.09.004
  • 査読あり
• [雑誌論文] Indoxyl sulfate down-regulates SLCO4C1 transporter through up-regulation of GATA3 (2013)
  • 著者名/発表者名: Yasutoishi Akiyama, Koichi Kikuchi, Daisuke Saigusa, Takehiro Suzuki, Yoichi Takeuchi, Eikan Mishima, Yasuaki Yamamoto, Ayako Ishida, Daiki Sugawara, Daisuke Jinno, Hisato Shima, Takafumi Toyohara, Chitose Suzuki, Tomokazu Souma, Takashi Moriguchi, Yoshihisa Tomioka, Sadayoshi Ito, Takaaki Abe
  • 雑誌名: PLoS ONE 巻: 8 ページ: e66518
  • DOI: 10.1371/journal.pone.0066518
  • 査読あり
• [雑誌論文] SLC10A4 is a protease-activated transporter that transports bile acids (2013)
  • 著者名/発表者名: Takuya Abe, Yoshitomi Kanemitu, Masateru Nakasone, Ichiro Kawahata, Tohru Yamakuni, Akira Nakajima, Naoto Suzuki, Masazumi Nishikawa, Takanori Hishinuma, Yoshihisa Tomioka
  • 雑誌名: Journal of Biochemistry 巻: 154 ページ: 93-101
  • DOI: 10.1093/jb/mvt031
  • 査読あり
• [学会発表] 長期課題研究・アドバンスト教育プログラム及び最先端創薬研究プログラム (2014)
  • 著者名/発表者名: 富岡佳久
  • 学会等名: 日本薬学会第134年会
  • 発表場所: 熊本
  • 年月日: 20140327-20140330
  • 招待講演
• [学会発表] 抗1-methyladenosine抗体反応性分子の同定を目的としたtRNA分子種の解析法に関する研究 (2014)
  • 著者名/発表者名: 津久井佑梨、陣野大輔、三島英喚、鈴木直人、塚本宏樹、三枝大輔、伊藤邦彦、阿部高明、富岡佳久
  • 学会等名: 日本薬学会第134年会
  • 発表場所: 熊本
  • 年月日: 20140327-20140330
• [学会発表] リコカルコンＡのCOX-1活性抑制メカニズムの解明 (2014)
  • 著者名/発表者名: 菅原大貴、田代 匠、三枝大輔、塚本宏樹、奥田亜沙、小原祐太郎、鈴木直人、富岡佳久
  • 学会等名: 日本薬学会第134年会
  • 発表場所: 熊本
  • 年月日: 20140327-20140330
• [学会発表] 新規腎障害マーカーとしての１－メチルアデノシンの検討
  • 著者名/発表者名: 陣野大輔、鈴木直人、津久井佑梨、三枝大輔、三島英換、鈴木千登世、塚本宏樹、阿部高明、富岡佳久
  • 学会等名: 第52回日本薬学会東北支部大会
  • 発表場所: 仙台
• [学会発表] LC/ESI-MSを用いた血清胸腺因子（FTS）定量法の開発
  • 著者名/発表者名: 中曽根正晧、鈴木直人、金光祥臣、塚本宏樹、富岡佳久
  • 学会等名: 第52回日本薬学会東北支部大会
  • 発表場所: 仙台
• [図書] 最新生理活性脂質研究－実験手法、基礎的知識とその応用－、横溝岳彦監修、青木淳賢、杉本幸彦、村上 誠編 (2013)
  • 著者名/発表者名: 富岡佳久、鈴木直人、三枝大輔
  • 総ページ数: 304 (55-62)
  • 出版者: メディカルドゥ