研究実績の概要 |
本研究では、質量分析法を用いた高感度スフィンゴ脂質定量系によって、健常者及び各がん腫患者の血中スフィンゴ脂質類を定量分析し、特にS1Pの新規腫瘍マーカーとしての臨床応用性を検討するものである。 がん患者血漿中S1P濃度は、健常者より高いことが示された。培養細胞を用いたMatulaらは、2015年に抗がん剤耐性とSPHK1 mRNA発現量が正に相関し、SGPL1と負に相関することを示した。これは、血漿中S1Pが化学療法に対する新規臨床治療効果予測マーカーとしての可能性を示す。しかし、さらなる詳細な研究が必要である。 前年度に引き続き、C8カラムを用いるセラミド等他の脂質類の評価系の構築を既報も参考にして検討した。QCをPCA解析した結果、測定の再現性が不十分であることが明らかになった。判別分析から、測定を重ねるに従って分析カラム等にPC、SM、PE等のリン脂質類が蓄積し、結果に影響することが判明したため、洗浄過程等の改善を継続して検討中である。 LC/HRMSによる非標的血漿メタボローム解析用分析カラムを汎用ODSカラムからSS-C18カラムに変更し、新規バイオマーカーの探索を行った。特に健常人とがん患者で差違が大きい2成分(負イオンモード:がんで高値m/z 239.0169、がんで低値153.0190)を見いだした。成分m/z 239.0169をシスチンと同定した。また、シスチン以外のアミノ酸類血漿中量の変動も明らかとなった。このことはアミノ酸プロファイル解析ががん病態の解析に有用である可能性を示唆した。続いて、担がんマウスと対照マウスから得た血漿を用いて非標的血漿メタボローム解析を行ったところ、がんで高値となる4成分を見いだされ、1-メチルイノシン、N-アセチルシチジン、ダンボニトール、N-5-(N,N-ジメチルカルバミミドイル-オルニチンである可能性が示された。
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