本研究では、進行大腸癌に対する分子標的薬適応における病理学的評価の可能性を追求することを目的としている。本年度は、手術的に切除された進行大腸癌(pT3-4)109例を対象として、癌治療の分子標的として昨今脚光を浴びているEGFR、HER2、HER3の免疫染色を行い、その染色態度を臨床病理学的に比較検討した。 まずEGFRの免疫染色を検討したところ、109例中14例の腫瘍において陽性(14%)であった。腫瘍内における染色性を比較検討したところ、腫瘍中央に比べて腫瘍先進部で染色強度が増加する傾向にあった。特に、腫瘍先進部の簇出においての染色性増大が目立った。次にHER2について検討したところ、109例中4例で陽性(4%)であった。HER2の腫瘍内における染色性については、腫瘍中央と腫瘍先進部での染色性の強度差は目立たなかった。最後にHER3についても同様に検討したところ、109例中44例において陽性(60%)と評価した。HER3の腫瘍内における染色性であるが、腫瘍中央に比べて腫瘍辺縁での染色性が低下する傾向があった。また、HER3陽性率と腫瘍分化度に有意差があり、HER3陽性腫瘍には高分化が多い傾向がみられた。 以上を総合すると、in vivoでEGFRやHER3が二量体を形成することから、腫瘍先進部簇出におけるHER3の発現パターンがEGFRと逆になる傾向は、機能的メカニズムを考えるうえで興味深い結果と考えられた。また、低分化成分あるいは腫瘍先進部でHER3の発現低下がみられ、HER3をターゲットにした治療の可能性も議論になる中、今後の分子標的治療戦略における基礎的知見を提供するものと考えられた。
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