研究課題/領域番号 |
25430139
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
涌井 昌俊 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (90240465)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 癌 |
研究概要 |
「生物学的意義を有する設定条件下でのがん細胞株培養由来の網羅的トランスクリプトーム解析」 複数のヒトがん細胞株を対象に、低酸素培養実験系を作成するため実験目的に適した酸素環境や培養日数塔の条件最適化のための基礎検討を重ねた。培養結果や観察所見が安定している系を採用し、培養細胞からRNAを抽出してDNAチップによる網羅的トランスクリプトーム解析を実施した。 「トランスクリプトームのエントロピー解析に基づく腫瘍不均一性の定量的評価」 情報エントロピー(Shannon's entropy)および相互情報量(mutual information)の概念に基づいて、トランスクリプトームのエントロピーを算出するための基本式の骨子を試作した。これをヒト大腸がん細胞株低酸素培養実験系のトランスクリプトーム解析データに適用し、個々の代謝経路について酸素環境とトランスクリプトームの情報理論的関連性を定量化した。その結果、低酸素環境適応における代謝経路の階層性、類似性、ロバスト性が示唆さた。これは腫瘍組織内部における酸素環境の違いに由来する腫瘍不均一性を反映するものであると考えられた。エネルギー生成を担う脂肪酸代謝と糖代謝との間に類似性があり、特に解糖は酸素環境の違いによる動的特性が単なる遺伝子発現量増減のみではなく、情報理論的見地からも示された。窒素を有する化合物が包括される各種アミノ酸代謝とヌクレオチド代謝の間に類似性が認められた。同化と異化の接点となるクエン酸回路については酸素環境の違いに左右される程度は情報理論的には小さかった。ヌクレオチド代謝のうち、プリン代謝はクエン酸回路のように酸素環境による動的特性に乏しいように考えられた。これは、同一経路内における代謝中間体のリサイクル性が大きい代謝経路の特徴である可能性があり、代謝生物学に対する新たな洞察をもたらす知見になり得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通りに、腫瘍の不均一性をもたらす代謝ストレスの有無を題材に培養実験系を構築してトランスクリプトームデータを得ることができた。トランスクリプトームのエントロピーを算出するための基本式の骨子を試作して、それを実際のトランスクリプトームデータに適用して有用性を確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト大腸がん細胞株低酸素培養実験系のトランスクリプトーム解析データに関しては、代謝経路と同様に各種シグナル経路についてもエントロピー算出基本式の試作案を適用し、腫瘍不均一性の定量的評価の有用性を検証する。ヒト肺がん細胞株および中皮腫細胞株についてもヒト大腸がん細胞株と同様に解析を進める。酸素環境に関してヒト大腸がん細胞株と大きく異なる結果が得られた場合は、低酸素条件について一部変更して追試することも考慮する。ヒト肺がん細胞株および中皮腫細胞株については生物学的特性が異なる細胞株間における生物学的経路の情報理論的特性の異同を明らかにするべく、エントロピー算出基本式の試作案を適用して解析を重ねる。代謝ストレスと同様に、分化刺激の影響についても検討するべく、分化誘導培養系の作成に着手する。
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