研究課題
最終年度では、或る低酸素培養条件に感受性を示し生存不可となるヒト大腸がん細胞株との比較のために、他の種々のヒト大腸がん細胞株について同様の培養を実施した結果、新たに低酸素感受性株を2株見出し、更に抵抗性株を1株見出した。これらから抽出したRNAにつき、DNAチップによる網羅的トランスクリプトーム解析を実施し、データを得た。これも含め、本研究期間を通じて解析したヒト大腸がん、肺がん、中皮腫、乳がんの種々の細胞株のトランスクリプトームデータ全てを対象に、各生物学的経路における遺伝子発現頻度分布について、シャノンのエントロピーおよび相互情報量の計算を実施し、それを基に腫瘍不均一性を定量的に評価する指標の基本骨子の最適化を図った。この定量指標を約70種の代謝経路に適用したところ、有用性が示唆された。研究期間全体を通じて、異なる複数のヒトがん細胞株間の違いを腫瘍間の不均一性のモデルとみなし、情報理論を駆使した定量的評価の系の確立をめざし、その基本骨子を最適化できた。代謝経路に着目して適用した結果、エネルギー生成に関わる根源的な代謝経路(解糖、クエン酸回路、電子伝達・酸化的リン酸化)やヌクレオチド代謝は不均一性に乏しく、脂質代謝、アミノ酸代謝、ビタミン・補因子代謝の一部に大きな不均一性を見出した。また、同一のがん細胞株について異なる酸素環境培養間での比較を、腫瘍内不均一性のモデルとみなし、同様に適用した結果、低酸素に感受性を示す大腸がん細胞株についてはクエン酸回路や電子伝達・酸化的リン酸化が酸素環境によって不均一性を帯びることが明らかとなった。これらの生物学的意義については今後の課題である。本研究により、生物学的経路における遺伝子発現状況を情報理論的に捉えて腫瘍不均一性を定量的に把握することの有用性が示唆された。
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J Immunol.
巻: 195 ページ: 1883-1890
10.4049/jimmunol.1402103