研究課題
基盤研究(C)
がんは、いきなり正常細胞ががん細胞になる訳ではない。多段階の変化を経てがんに至る。しかもその変化は、周囲の環境に依存する。本研究では細胞ががん細胞に至る変化と周囲の環境変化との両局面から、がん進展過程を分子レベルで捉える。特に、がん細胞になる手前の細胞=癌前駆細胞に注目し、そこに見られる遺伝子の異常とタンパク質の異常を、また周囲にある間質細胞の特徴をタンパク質レベルで見いだす。そこから新たな癌前駆細胞の概念や、がんの早期発見に役立つマーカー分子を明らかにする。平成25年度は以下の点が明らかとなった。1 レーザーマイクロダイセクション・プロテオミクス肝細胞癌症例を2年以内再発群(早期群)と4年以内無再発群(遅延群)とに分けた。初発癌切除時の非癌部について、肝実質部位(実質)と門脈域周囲の間質及び肝実質部位(間質)とをレーザーマイクロダイセクションで採取し、タンパク質の網羅的発現量解析を試みた。その結果、1732個のタンパク質が同定され、早期群と遅延群とで異なるタンパク質発現を見いだした。その中には間質・実質の部位別に発現変化するものがあった。特に再発早期群の間質では、免疫応答、炎症関連タンパク質が大きく変動しており、微小環境の変化ががんの発生に影響すると考えられた。2 レーザーマイクロダイセクション・ゲノミクスホルマリン固定パラフィン包埋組織切片からレーザーマイクロダイセクションで採取抽出したDNAが、ゲノム解析に使用できる限界を検討した。その結果、新鮮凍結組織のDNAに比べ、0.2-6%の質的評価(DNA増幅反応のしやすさ)と悪かった。次世代シーケンサーでは、質的評価が悪いものほど、変異検出に偽陽性が生じやすく、他の方法による検証が必須であった。
3: やや遅れている
レーザーマイクロダイセクション・プロテオミクスについては、順調に進展している。が、レーザーマイクロダイセクション・ゲノミクスについては、予想外にホルマリン固定パラフィン包埋組織DNAの質的評価が悪かったため、次世代シーケンサーによる解析結果について、別の方法による検証実験が必要となった。またその限界を知って、より正確な変異解析ができるように、改善策の検討も必要となった。
(今後の推進方策)11 レーザーマイクロダイセクション・プロテオミクス計画通り、再発早期群に発現変動するタンパク質候補が見いだされたので、これらの再現性を検証する。さらに発現局所を明確にして、再発難易との関連を意義づける。2 レーザーマイクロダイセクション・ゲノミクス(1) ホルマリン固定パラフィン包埋組織DNAを用いたゲノム解析の限界を少しでも改善するために、解析反応系の改良を続ける。既にピックアップされている症例について、計画通り材料を採取し、検討した改良法で解析を試みる。(2) 肝癌自然発症モデルラットでは、ヒト肝癌前駆細胞と言われている細胞と類似した細胞が観察される。そこで、このモデル系を利用して、ヒト肝癌と平衡して、ラット肝癌及び癌前駆細胞のゲノム解析を実施する。共通の遺伝子変異も期待されることから、ラットで見いだされた遺伝子についても、ヒトで検討を行う。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件)
Experimental and Molecular Pathology
巻: 95巻 ページ: 46-50
10.1010/j.yexmp.2013.05.002
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