研究実績の概要 |
術前化学療法のレジメンが無効で、むしろ病状進行(progressive disease, PD)となる乳癌の予測分子マーカーを見出すことを目的とした。原発性トリプルネガティブ(TN)乳癌(ホルモン受容体陰性、HER2陰性)症例の中から、「術前化学療法中にPDを認め、手術を先行した症例」(PD群)20例と「術前化学療法を行わずに手術を行った症例」(対照群) 80例の計110例から組織アレイを構築し、腫瘍の組織学的特徴、上皮間葉移行(EMT)関連分子、basal-like marker(p53, EGFR, CK5/6), アンドロゲン受容体(AR), ABCトランスポータABCB1, DNA結合タンパクHMGB1の発現を検討し、TN両群間の症例-対照研究の形で陽性率を比較した。手術検体の腫瘍組織像は、核grade 3がPD群100%、対照群78%;核分裂像10高倍視野(HPF)40個以上の例がPD群91%, 後対照群29%、Ki-67陽性細胞率はPD群63.0%、対照群41.7%と差を認めた。CK5/6はPD群でより高頻度に陽性(41% vs 5%)であったのに対しARはPD群でより低頻度(9% vs 29%)であった。HMGB1の細胞質染色はPD群で85%、対照群で51%とPD群でより高頻度であった。PD群にて化学療法前後で病理像やマーカー発現様式を比較したところ、化生癌、核分裂像≧10個/10 HPFの頻度が、治療前の14%、26%に対し、治療後は41, 100%に上昇し、ZEB1(核)、CK5/6の陽性率が治療前の16%、25%から治療後は42, 42%と上昇する傾向を示した。他のパラメータは治療前後で大差はみられなかった。PD群は元来basal-likeの特徴や間葉への分化を示すものが多く、また細胞増殖速度が速く異型度も高い傾向にあったが、治療によってそれらの形質がさらに増強され薬剤耐性をより強固なものにすると推測された。
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今後の研究の推進方策 |
今回見出された有意なマーカーである、上皮間葉移行マーカー(化生癌、ビメンチン、Snail2, Twist NB, ZEB1)、Basalマーカー(CK5/6), 細胞増殖マーカー(Ki-67,核分裂像)、ABCB1核染色性について、別コホートを用いた検証実験を進める。さらにゲノムやプロテオーム研究グループと連携して得られたゲノム、エクソーム、SNPアレイ解析によるデータを解析していく。これらの結果も別コホートで検証し、英文論文として公表する。
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