研究実績の概要 |
トリプルネガティブ乳癌(TNBC; エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2の発現がいずれも陰性の乳癌)の中で術前化学療法により臨床的病状進行(cPD)となり外科切除が行われた例22例を対象に病理組織学的および分子レベルでの特徴を検討し、その結果を解析した。対照群は術前化学療法を行わずに手術療法が行われたTNBC80例である。これらの症例につき組織形態と細胞増殖指標、12分子についての免疫組織化学(IHC)的検討を施行した。組織学的因子として対照群と比べてcPD群でより高頻度であったのは化生(軟骨、紡錘細胞、扁平上皮)を伴う癌(41 vs 3%, P<0.001), 腫瘍浸潤リンパ球(TIL)低レベル(77 vs 55%, P=0.039), 核分裂像数10高倍視野あたり40個以上(82 vs 31%, P<0.001), 平均Ki-67陽性細胞率(63.0 vs 41.7%, P=0.0023),IHC的にcPD群でより高頻度であったのはcytokeratin(CK)5/6(41 vs 5%, P<0.001),細胞質HMGB1(86 vs 51%, P=0.0023),ZEB1 (36 vs 13%, P=0.0093),TWISTNB(27 vs 3%, P=0.0011),vimentin(77 vs 54%, P=0.049), Snail-2(9 vs 48%, P=0.049),アンドロゲン受容体(AR)陰性(91 vs 71%, P=0.046)であった。EGFR, BRCA1, Eカドヘリンは両群間で差がなかった。これらの因子は1. 上皮間葉移行(EMT)関連(軟骨、紡錘細胞化生、ZEB1, TWISTNB, vimentin, Snail-2)、2.細胞増殖活性とアポトーシス抑制関連(核分裂像、Ki-67、HMGB1), 3.ある種のbasal-like幹細胞または扁平上皮化生(CK5/6),4.AR抑制関連, 5.免疫寛容(TIL-)に分類できた。これらの経路の相互関連や共通の背景となるゲノム、エピゲノムの変化について今後調べていきたい。
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