研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は、個々の腎がんにおける遺伝子変異に基づく固有抗原の同定と個別化がん免疫治療の開発である。手術で切除された腎がん組織より、次世代シーケンサーとMHC class I 結合予測法を用いて、腫瘍細胞に発現する免疫原性の高い固有抗原を予測する。その予測した抗原が、実際に生体内で免疫反応を起こしているかどうかの検証を行い固有抗原を同定する。個々の腎がん患者に対する免疫原性の高い固有抗原を用いた強力な個別化がん免疫治療を開発する。腎がんの解析に先立ち、既に当院でがん組織のがん部と非がん部(コントロール)の両方がセットで入手可能であった膵神経内分泌腫瘍(NET)6例を用いて次世代シーケンスを行った。まず、全エクソームシーケンスにより、がん部と非がん部のエクソームを調べることで1例あたり平均 967個(876-1086個)の腫瘍特異的変異を同定し、その中でコーディング領域に存在する平均118個(97-139個)のミスセンス変異を同定した。さらに、全RNA シーケンスのデータをもとにRNAの発現が見られるものに絞り最終的には1例あたり平均96個(79-133個)のミスセンス変異を同定した。このミスセンス変異由来の変異ペプチドのアフィニティを指標に候補固有抗原数を計算したところ、1例当たりIC50<1000では平均36個(12-57個)、IC50<500では平均31個(6-50個)、IC50<50では平均14個(3-29個)となった。現在、比較的強いアフィニティを示すIC50<500のペプチドを順次合成し、免疫反応を検討しているところである。
2: おおむね順調に進展している
東京大学医学部遺伝子解析研究倫理審査委員会において、「個々のがんの遺伝子変異に基づく固有抗原の同定と腫瘍内微小環境の解析に基づく免疫制御法を組み合わせた個別化がんワクチン治療の開発」の承認を得て(G3545)、腎がん組織のがん部と非がん部の両方を現在収集し、次世代シーケンスの準備を進めている。今回は既に当院でがん組織のがん部と非がん部の両方がセットで入手可能であった膵神経内分泌腫瘍(NET)6例を用いて、次世代シーケンスとMHC class I 結合予測法を利用して固有抗原同定システムを構築することができた。現在、これらの候補となる変異ペプチドを合成し、それらが実際に免疫反応を起こすか検証するところである。腎がんにおいても、検体が収集でき次第、全エクソームシーケンスと全RNA シーケンスを開始できる状態である。次世代シーケンスとMHC class I 結合予測法を用いて、腎がんの候補となる固有抗原を選出するが、膵神経内分泌腫瘍(NET)で行なった方法をそのまま腎がんに応用することが可能と考えられる。
膵がんにおけるHLA-A2拘束性の変異ペプチドに関しては、ペプチドを合成後、それらをHLA-A2トランスジェニックマウスに免疫し、マウス生体内で変異ペプチド特異的な免疫反応が誘導可能か検証する。具体的には変異ペプチドを2回マウスに免疫し、最終免疫1-2週間後に脾臓を採取し、それぞれの変異ペプチドと共培養し、IFN-gammaの産生を細胞内IFN-gamma染色法で調べる。IFN-gammaの産生のみられる変異ペプチドに関してはその野生型ペプチドも合成し、変異ペプチドのみに特異的に反応するかを検証し固有抗原を同定する。今後、腎がん3例においても膵神経内分泌腫瘍(NET)で構築した固有抗原同定システムを使い固有抗原を同定する。最終的には、3例の腎がんでどれくらいの数のミスセンス変異が存在し、その中でMHC class I結合予測法によるアフィニティが高いものが何個あり、そのうちいくつの変異ペプチドが免疫原性をもっているか、そして何個の変異ペプチドを使った免疫治療が可能であるかなどを検討する。本研究期間内に、将来個別化がん免疫治療を行っていく準備段階としての基礎的データを得る。
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