研究課題
基盤研究(C)
癌治療において癌細胞に対する薬剤抵抗性の獲得の機序には、低酸素という微小環境、癌幹細胞の存在、免疫抑制性細胞の増殖等が関わっている。また近年、オートファジーが抗腫瘍効果との関連において注目されている。申請者は、癌細胞死と拮抗的に作用するオートファジーの抑制により抗癌効果が増強されることをすでに明らかにした(Cancer Immunol Immunother. 2012, Breast Cancer Res Treat. 2012)。本研究はこれらを更に発展させる目的で、上皮性癌に対する免疫的細胞傷害を制御する分子機構解明から、癌治療抵抗性の克服を目標としている。そこで、臨床研究である程度の治療効果が得られていながらも治療抵抗性の獲得が課題となっているTRAILと、オートファジー阻害効果を有するpifithrin-muを併用したところ、ヒト膵癌細胞に対するTRAILの抗腫瘍効果を増強することが明らかとなった(Monma H, et al. Mol Cancer Ther, 2013)。さらにオートファジー阻害効果が知られており、他疾患ですでに臨床で使用されているchloroquineをTRAILと併用すると、それぞれ単剤の場合と比べて有意にcell viabilityが低下した。また、ヒト膵癌細胞株のうちTRAIL低感受性のPanc-1細胞は、低酸素環境下で培養すると、正常酸素環境下で培養した場合と比較してTRAILに対する感受性が高まった。Panc-1細胞はTRAIL受容体であるdeath receptor (DR)-4, DR-5の発現が陽性であったが、低酸素誘導因子HIF-2alphaをRNA干渉で抑制すると、DR5の発現が高まった。これらの結果より、治療抵抗性の獲得に低酸素誘導因子HIFやオートファジーが重要な役割を担っている可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ヒト膵癌細胞株として、TRAIL高感受性であるMiaPaca-2細胞とTRAIL低感受性であるPanc-1細胞を用いて、TRAIL感受性は、WST-8 assayとAnnexin V / PI染色後のフローサイトメトリーにより検討できた。TRAIL受容体であるDR4とDR5の発現をヒト膵癌細胞株数種類で確認した。TRAIL感受性の異なる膵癌細胞株を低酸素環境下で培養すると、正常酸素環境下で培養した場合と比較してTRAILに対する感受性が低下することがわかった。低酸素誘導因子HIF-1 alphaやHIF-2 alphaのRNA干渉をトランスフェクションして一時的に発現抑制した細胞株、あるいはそれぞれのshRNAを導入しstableに発現をknockdownした細胞株を作成し、確かに発現抑制されていることを確認し、今後の研究に大いに活用できる準備ができた。これらの研究成果は、日本がん免疫学会、日本癌学会、日本免疫学会等で発表である。
HIF-1 alphaおよびHIF-2 alphaの発現は多くの癌種で予後不良との関連があり、HIF-2 alphaは活性酸素種(ROS)産生を亢進し(Cancer Cell, 2007)、HIF-2の阻害はp53活性化を促進する(Nat Genet, 2003)報告がある。低酸素環境での癌細胞におけるROS産生をフローサイトメトリーで解析し、その産生が抗酸化物質により受ける影響を検証していきたい。HIF-1 alphaおよびHIF-2 alpha分子ノックダウン細胞株が得られているので、さらにTRAIL感受性への影響を検証したい。癌微小環境における低酸素は、アポトーシスの回避や治療抵抗性に関わっていると考えられており、これらを標的とした治療が検討されているが、具体的にHIF-2 alpha分子との関連性については報告がほとんどないので、詳細に検証したい。また、オートファジーの抑制は、阻害剤(chloroquine や3-methyladenineなど)やオートファジー関連分子)のsiRNA/ shRNAを用いた遺伝子ノックダウンを利用し、オートファジーを制御後のアポトーシスへの影響と、効果的な癌細胞死の増強を検討したい。その作用機序は、オートファジーマーカーLC3-II発現やGFP-LC3融合タンパクを発現させた癌細胞で細胞質内のGFP-LC3 foci形成確認で解析する予定である。オートファジーと低酸素環境の相互作用やこれらが癌細胞死に与える影響について、パーフォリン・グランザイム系で細胞傷害を誘導するCTLが膵癌細胞におけるTRAIL感受性に及ぼす影響を、健常人末梢血から誘導した癌反応性CTLやNK細胞を用いて、オートファジー制御後の膵癌細胞での検討が前年度はほとんどできなかったので、本年度中に解析を進めたい。
研究初年度(H25年度)3月時点で、購入希望の蛋白発現検出用抗体やアポトーシス検出試薬のメーカー国内在庫がなく納期に時間がかかり、また当時の残金では購入できず、3月末までに購入することが難しかったため、繰越して使用する研究費が生じてしまった。科学研究費補助金の一部基金化により、年度をまたぐ物品調達が可能となったので、次年度に交付される学術研究助成基金助成金と合わせて、本研究遂行に必要な試薬を購入することとした。本研究2年目となるH26年度は、シグナル伝達経路阻害剤やその解析に必要な抗体、siRNA、分子生物学実験用試薬、細胞培養用液体培地、培養用血清、サイトカインなどを中心とした細胞培養関連試薬およびプラスチック実験器具類等の消耗品購入に、交付される研究費の6~7割を充てる予定である。その他は、研究成果を所属学会(国内)で発表するための旅費、研究成果を英文科学雑誌に投稿するための英文校正費や論文投稿料などに使用する予定にしている。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (11件)
International Immunopharmacology
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Mol Cancer Ther
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