研究課題
基盤研究(C)
本研究の最終ゴールは大腸がん治療の新規薬剤カテゴリー創製である。具体的には、デセン酸を初期リードとして我々が設計および合成したパルミチン酸誘導体(化合物A、特願2010-079755, H25.1.15審査請求)の抗がん効果をin vitroおよびin vivoで検証した。ヒト大腸がん細胞株に対するIC50は0.7 μM(HT29)および1.8 μM(HCT116)であり、用量依存性薬剤曝露による浮遊細胞の増加、用量依存性のsubG1 fractionの誘導(FACS解析)、PARP、caspase3、7、8、9の断片化、Baxおよびp21CIP1の発現増加、Bcl2およびBcl-xLの発現減少を認めた(ウエスタンブロット解析)。化合物Aと転写因子STAT3との結合性をin silico解析した結果、化合物AはSTAT3のSH2ドメインに結合しホモダイマー形成を阻害しリン酸化を抑制することが予測された。化合物A用量依存性のリン酸化型STAT3の発現減少が認められた(ウエスタンブロット解析)。ヌードマウス皮下にHT29細胞を移植し、化合物Aを腹腔内投与した結果、経過中より縮小効果がみられ実験終了時では約37%の縮小効果を認めた(P<0.001)。腫瘍でのviable areaについて、投与群は対象群に比べて32%減少した(P<0.001)。実験経過中の体重減少はみられなかった。化合物Aの急性毒性試験(腹腔内投与)では体重に有意差はなく食道、胃、十二指腸、膵、大腸、肝、脾、腎、副腎、肺、心、卵巣、子宮、骨髄に組織学的に有意な異常所見を認めなかった。これらの結果より、化合物Aはヒト大腸がん細胞にアポトーシスを誘導することで増殖を抑制する。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究の目的は(1)腫瘍選択性の機序、(2)ファルマコフォア同定とプトロタイプ化合物設計、(3)治療域設定と抗がん効果検証(動物)、(4)製剤型と投与形態検討、である。(1)についてはin silico解析より、化合物Aの転写因子STAT3のホモダイマー化阻害機序が示唆された。STAT3は大腸がんを含む多種のがんの遺伝子発現を制御しており、化合物AはpSTAT3発現を減少させたので、STAT3のリン酸化阻害がアポトーシス誘導に働く可能性がある。腫瘍特異的な転写因子機能阻害が腫瘍選択性を規定するひとつの機序になっている可能性がある。(2)についてはin silico解析とin vitroでの抗がん効果の程度に関する結果よりpiperidineのN(窒素)の求核性と飽和炭素鎖長が重要であることがわかった。よって、至適な求核性と炭素鎖数を求めるために複数の化合物を設計、合成し、IC50が最も低くがん細胞選択性をもつプロトタイプ化合物を見出した(特願準備中)。(3)については、これまでの複数動物実験よりヌードマウスで0.025から0.05 mg/kgと考えている。現在ラットでの検証を行っているがほぼ同様レベルと見積もっている。(4)については塩酸塩でのラージスケール合成法(グラム単位合成)を検討中である。最終的には経口投与での治療域を求める方向である。これまでの経過より動物実験での効果検証は当初計画より進んでいる。細胞実験では計画通り進行中である。
目的(3)(4)については大腸発がん動物モデル(マウスおよびラット)での検証を促進する。並行して、ラージスケール合成法の確立を進め経口投与での治療域設定を行う。目的(1)では標的候補分子(STAT3とこれに制御されるがん関連分子)にfocus onすることにより詳細な機序解明を進める。(2)ではファルマコフォアの基本構造とその特性がわかってきたので早期に国内特許出願、経過中にPCT出願を行う。これまでに確立した実験システムを利用してプロトタイプ化合物の抗がん効果検証を進める。
物品費等に若干の残額が出たため。残額は次年度使い切り。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
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