研究課題
本研究の検体パルミチン酸誘導体(特願2010-079755、2013.1.15審査請求)の特許を取得した(特許第5597427、2014.8.15登録、特許権者および発明者:酒々井眞澄、飯沼宗和)。本物質名はパルミトイルピペリジノピペリジン(PPI)であり、大腸がんを治療標的としている。本年度は前臨床試験を見据えて、1. 個体レベルの抗がん効果発現、2. 求核性が腫瘍選択性への及ぼす影響を検証した。最初にラット大腸発がんプロモーション抑制効果を検証した。8週齢雄F344ラットに大腸発がん剤アゾキシメタンを皮下注射し2~50 mg/kgの用量のPPIを10日毎に計4回腹腔内投与した。解剖時に大腸を摘出し発生した大腸前がん病変である異常陰窩巣をカウントし対照群と比較することで大腸発がんプロモーション抑制効果の有無を判定した。50および10 mg/kg投与群でそれぞれ40および45%の有意な発生抑制を認めた(P<0.05)。高用量投与群の半数の動物に腹膜炎が発症し用量効果はみられなかったため、最高用量を10 mg/kgとし5および2 mg/kg投与群を設定し異常陰窩巣発生抑制効果を検証した。各用量での抑制率は41、40および22%であり、低容量群と他群間に用量効果がみられた(Spearman’s test、P<0.05)。実験期間中群間に有意な体重減少は認めなかった。つぎにPPIをリードとして求核性を向上させた化合物を新たに複数設計、合成して複数のヒト大腸がん細胞株に対する増殖抑制効果を調べた結果、IC50値でPPIと比較して約10倍抗がん効果にすぐれた複数の新たなプロトタイプ化合物を見出した。濃度0.3 μMでヒト大腸がん細胞株HT29は92%死滅、この濃度でのヒト大腸正常細胞の生存率は92%であった。PPIと比べてより低濃度で腫瘍選択性を発揮することを示している。
1: 当初の計画以上に進展している
1. 個体レベルでの抗がん効果検証実験ではラット大腸異常陰窩巣モデルを利用している。これは6週間で効果判定可能な実験システムであり時間的に有利である。腹腔内投与の副作用として腹膜炎があるため、最高用量を調整することで腹膜炎の発症なしに用量効果をみることができる用量と投与間隔を突き止めた。今後はこの条件にて効果の再現性を検証していく。現在PPIラージスケールでの合成中である。2. 前年度に引き続き求核性を変えた複数のプロトタイプ化合物を合成し複数のがん細胞を使って細胞増殖抑制効果と正常細胞への毒性を検証した。効果の再現性がとれたため化合物群を特許出願した(特願2015-070424、2015.3.30)。
1. ラット大腸異常陰窩巣モデルでの検証が完了後に大腸発がん抑制効果をみるために長期試験を行う計画である。並行して経口投与での実験システムを構築する。2. Transient transfection reporterアッセイにて転写因子STAT3活性への影響をみる。CAMアッセイにて血管新生抑制効果を検証する。国内特許出願したプロトタイプ化合物について国際特許出願準備を進め早期に申請する方針である。
物品費等に若干の残額が出たため。
残額は次年度使い切り。
特許第5597427号、抗がん剤、発明者及び権利者:酒々井眞澄、飯沼宗和、出願2013年1月15日、取得2014年8月15日
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 7件、 謝辞記載あり 7件) 学会発表 (6件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
Oncology Letters
巻: 9 ページ: 2112- 2118
10.3892/ol.2015.3053
PloS One
巻: 9 ページ: e111481
10.1371/journal.pone.0111481
Biol Pharm Bull
巻: 37 ページ: 1068-1074
Biometals
巻: 27 ページ: 1017-1029
10.1007/s10534-014-9747-2
Cancer Sci
巻: 105 ページ: 763-769
10.1111/cas.12437
Asian Pac J Cancer Prev
巻: 15 ページ: 929-935
Arch Toxicol
巻: 88 ページ: 65-75
10.1007/s00204-013-1086-5
http://www.med.nagoya-cu.ac.jp/moltox.dir/index.html