エストロゲン依存性の増殖をする乳癌細胞において、タモキシフェン等でER の機能を阻害すると、ER によって駆動される細胞増殖に重要な遺伝子群の転写が抑制され、細胞周期が停止し、最終的には細胞死に至る。しかし、我々が開発したER 分解誘導剤は、比較的短時間で細胞死を誘導することから、ER 分解誘導剤が積極的に細胞死のシグナルを起動していることが示唆されていた。平成25年度には、ギムザ染色による細胞形態観察と細胞からのHMGB1タンパク質の放出の結果から、ER 分解誘導剤は乳癌細胞であるMCF-7に、ネクローシス様細胞死を誘導することを明らかにした。平成26年度は、ER分解誘導剤によってER分解依存的にROSが産生され、ネクローシスが誘導されていることを示唆する結果を得た。最終年度となる平成27年度は、ER 分解誘導剤依存型細胞死について、分子レベルでの解析を引き続き行った。ROSのインヒビターであるN-acetyl-L-cysteineで細胞を前処理しておくと、ROSの産生が抑えられ、細胞死が抑制された。この結果により、細胞死がROSの産生によって引き起こされていることが明らかとなった。また、ER 分解誘導剤のリガンドを置換した新しい化合物を複数合成し、より高いER分解活性を有する化合物の取得に成功しており、細胞死誘導活性について検証中である。
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