本研究は、エピジェネティク制御機構の重要因子であるヒストンアセチル化関連酵素群(アセチルトランスフェラーゼ(HAT)やヒストンデアセチラーゼ(HDAC))の固有の生理機能を、遺伝子ノックアウト法を用いて解明することを主たる目的とした。現在までにヒトにおいて同定されているHATおよびHDACはそれぞれ20種類足らずであり、2万を越える遺伝子の発現制御に関しては各ヒストンアセチル化関連酵素が固有の機能とオーバーラップした機能とを併せ持っていることが推測される。この複雑きわまりないヒストンアセチル化関連酵素群の生理機能(特に固有の生理機能)を明らかにすることは、生物学・医学的に極めて有意義である。具体的な手法は、細胞レベルの遺伝子ノックアウト実験系として知られるニワトリB細胞株であるDT40を用いて、種々のHATおよびHDACの遺伝子欠損変異株を作成し、これらのphenotypeを解析することにより、当該HATおよびHDACの固有の生理機能を詳細に解析する、というものである。最終年度においては、以下に示す研究成果を得た。 (1)HATの一つであるGCN5が薬剤誘導性小胞体ストレスによって引き起こされるアポトーシスを抗アポトーシス遺伝子bcl-2の発現抑制を介して促進的に制御することを明らかにした。 (2)HATの一種であるPCAFが免疫グロブリン重鎖の遺伝子発現を抑制的に制御することを証明した。 (3)PCAFがB細胞特異的転写因子であるBcl-6およびPax5の遺伝子発現制御を介してB細胞の分化に重要な役割を担っていることを明らかにした。 研究期間全体を通じて得られた成果は、ヒストンアセチル化・脱アセチル化による細胞機能調節のエピジェネティク制御機構の全貌解明に大きな貢献をしうるものと考えている。
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