研究課題
基盤研究(C)
大腸菌ゲノムの転写パターンの決定と環境変動に応じた制御は、転写酵素RNAポリメラーゼが、7種類のプロモーター認識シグマ因子と約300種類の転写因子との、2段階の相互作用で、遺伝子選択性を変動させることでなされるとの理論を提唱して来た。この理論を実証する目的で、以下の研究を実施して来た。1)全シグマ因子、全転写因子が支配する標的プロモータ-・標的遺伝子セットの同定: この目標に達成するために、シグマ因子が認識する全プロモータ-、転写因子が認識する全標的遺伝子群を同定するために、純化蛋白を利用してゲノム上の認識結合DNA配列を同定する「Genomic SELEX法」を開発し、系統的解析を実施した。一方、ひとつのプロモータ-を認識制御するシグマ因子、転写因子群を全て一挙に同定するための「PS-TF screening法」を開発し、系統的解析を実施した。ふたつの方向からの研究から、大腸菌転写因子が、一般に、多数の標的遺伝子群を制御していることや、一つのプロモータ-の制御に、多数の転写因子が関わっている、画期的発見をした。2)全シグマ因子、全転写因子の細胞内濃度の実測と機能制御機構の解明: シグマ因子、転写因子の標的同定と平行して、それらの細胞内濃度の実測を、純化蛋白を利用して作製した抗体を利用した転写因子蛋白免疫定量法と、転写因子プロモーター活性を蛍光蛋白レポーターで測定する転写因子プロモータ-強度測定法を併用して行って来た。加えて、転写因子の機能を制御するエフェクターの系統的探索と、転写因子のリン酸化などの蛋白修飾による活性制御様式の系統的分析を開始した。大腸菌シグマ因子7種、転写因子300種を対象にした本研究の実施に伴って得られつつある成果は膨大である。論文発表に加えて、新たなデータベースを構築するための準備を開始した。
1: 当初の計画以上に進展している
大腸菌RNAポリメラーゼシグマ因子7種類、転写因子300種類に関して、我々が独自に開発したSELEX-chip法とPS-TF探索法を利用して、制御標的を探索して来た。この方法を利用するためには、全シグマ因子・全転写因子の純化精製が必要であるが、これまでにシグマ因子7種全部、転写因子280種を、それぞれの遺伝子を人為的に大量発現をし、精製に成功した。純化蛋白を利用したSELEX-chip解析は、シグマ全種、転写因子150種に関して実施した。制御標的を推定した後、生体内での制御については、個別に解析する膨大な作業が必要であるが、国内外の共同研究者の協力を得て、取り敢えずは、順調に進んでいる。研究成果の全貌を公表すれば、原核生物ゲノム発現制御の教科書的概念を一新させることになる。研究成果については、シグマ因子に関してはRpoDシグマ(増殖期主要シグマ)、転写因子に関しては20種類に関して得られた成果を論文として公表した。なお、大腸菌シグマ因子7種、転写因子300種を対象にした本研究の実施に伴って得られつつある成果は膨大である。論文発表に加えて、新たなデータベースを構築するために、国立遺伝学研究所の協力を得て準備を開始した。成果を統合して、世界に先駆けて「ひとつの生物のすべての転写因子の制御機能解明」を達成する最終目標に向けて、研究は着実に進んでいる。
研究申請段階で申請した研究目標、(1) 大腸菌シグマ因子7種、転写因子300種の制御標的のSELEX-chip法、PS-TF法を併用した制御標的の探索、(2) 試験管内反応で予測した、これら転写調節蛋白群の制御標的の生体内での制御の実証、(3) 転写因子蛋白群の細胞内濃度の計測、(4) 転写因子群の活性に影響するエフェクター探索、蛋白修飾による機能制御の解析は、共同研究ネットワークの支援を得て継続し完成を目指す。個別シグマ因子、転写因子に関する研究成果は、新たな制御様式、制御機構、制御ネットワークなどが含まれる場合には、独立して論文として公表する方針である。これまでに、併せて23報の論文を報公表して来たが、この努力を継続する。しかし、併せて300種以上の転写調節蛋白全てについて論文公表は、長期間の膨大な作業が必要であり、個人の努力では困難である。従って、国立遺伝学研究所の協力を得て開始した、新たなデータベースを構築するための作業を加速する計画である。
平成25年度に予定していた海外の国際会議での研究成果発表のための出張が、招待講演者として主催者から旅費滞在費の支援を得たので、予算節約となった。研究開始後、研究実験室を移動し、研究環境が変わったので、本研究を遂行するために必要な研究支援の必要性が当初計画より増大した。予算は、主として、研究支援員の雇傭に充当する。
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