研究実績の概要 |
深海熱水活動域に生息する巻貝、スケーリーフットは、その貝殻および鱗状組織が硫化鉄結晶により覆われた形態を有する現生で唯一の生物である。本研究計画では、非モデル生物であるスケーリーフットの全遺伝子配列を明らかにし、鱗状組織と他の組織あるいは硫化鉄で覆われていない白スケーリーフットとの比較トランスクリプトーム解析により、この新奇なバイオミネラリゼーションを制御する遺伝子を明らかにすることを目的とした。黒スケーリーフット(硫化鉄鱗を持つ)の鰓、外套、鱗縁辺、腹足、頭部組織からRNA-seqライブラリーを調製し、各組織当り200~350万シーケンスリード(全1,350万シーケンスリード/1個体)を取得し、de novo アセンブルを実施した。その結果、これまでゲノム解析された他の貝類の遺伝子数と同等の約35,000の発現遺伝子配列を構築することに成功した。これら遺伝子配列には、核遺伝子、ミトコンドリア遺伝子、リボソーマルRNA遺伝子が含まれ、一方、核遺伝子の約半数については他生物種の遺伝子と相同性を示し、機能的には物質代謝関連の遺伝子が最も多く同定された(11%)。さらに、組織間の比較トランスクリプトーム解析からは、貝殻形成に関わるマトリックス蛋白質遺伝子が鱗縁辺組織において組織特異的に、かつ高発現していることを見出した。今後、硫化鉄形成メカニズムに対するモデル構築するためには、さらなる詳細なインフォマティックスを実施し、他のバイオミネラリゼーション関連遺伝子の特定していく必要がある。そこで、本研究計画にて構築した遺伝子配列情報は、関連遺伝子探索において活用されるはずである。
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