• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2014 年度 実施状況報告書

エピジェネティクス因子による代謝プログラミングとエネルギー恒常性の研究

研究課題

研究課題/領域番号 25430178
研究機関熊本大学

研究代表者

日野 信次朗  熊本大学, 発生医学研究所, 助教 (00448523)

研究期間 (年度) 2013-04-01 – 2016-03-31
キーワードエピジェネティクス / エネルギー代謝 / ヒストン脱メチル化
研究実績の概要

本課題において、環境変動に応じた代謝プログラム転換を司るエピジェネティクス機構の解明を目的とした研究を行っている。今年度は、ヒストン脱メチル化酵素であるLSD1及びLSD2の分子機能解析を実施した。
1. がん細胞のエネルギー代謝転換におけるLSD1の役割
肝がん細胞において、LSD1が解糖系を活性化し、ミトコンドリア呼吸を抑制することによりがん細胞固有の代謝戦略である好気的解糖を維持していることを明らかにした。LSD1はヒストンH3K4脱メチル化を介してミトコンドリア代謝関連遺伝子を抑制すると同時に、転写因子HIF-1αを安定化することにより解糖系遺伝子発現を活性化していた。さらに、マウスを用いた腫瘍細胞移植試験においてLSD1は肝がん細胞の生着に重要であることを突き止めた。これらの成果はLSD1が統合的ながん代謝制御因子であることを示唆している(Sakamoto et al. Cancer Res. 2015)。
2. LSD2による肝細胞における脂質代謝制御
トランスクリプトーム、エピゲノム及びメタボローム解析を駆使して、LSD2が肝細胞の脂質代謝量を適正に維持していることを明らかにした。このようなLSD2の働きは、脂質輸送や代謝に関わる多数の遺伝子発現をH3K4脱メチル化を介して抑制していることとリンクしていた。これらの遺伝子制御において、LSD2はストレス応答性転写因子であるc-Junと協働していることを突き止めた。また、LSD2は過剰な脂質負荷による肝細胞障害を抑制することがわかった。これらの点から、LSD2は肝細胞の脂質代謝を適正に保ち、脂肪毒性から保護している可能性が示唆された(Nagaoka et al. Mol. Cell. Biol. 2015)。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

実績の概要で示したとおり、当初目標としていた、LSD1及び2を介した環境依存性エピゲノム制御と代謝転換との関係について、その一端を明らかにすることができた。特にLSD1及び2による代謝遺伝子制御の全体像を明らかにすると共に、環境依存的に両分子と機能的に相互作用する転写因子を同定することができた。また、昨年度までにLSD1による骨格筋代謝制御についても明らかにしている点や、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)合成酵素の細胞内挙動を検討した点を踏まえて、概ね順調に進捗していると考えられる。

今後の研究の推進方策

本年度までに、栄養環境や細胞特性に応じてLSD1及びLSD2が多様な代謝遺伝子制御を行っていることを明らかにした。現在までの進捗状況を踏まえて、今後の研究では、環境に応じたこれらエピゲノム制御の分子機構の詳細を解明したい。具体的には、栄養・代謝センシングを司るホルモンのシグナル伝達経路とLSD1及び2がどのように関係するかを検討する。特に、骨格筋分化や代謝転換におけるホルモンシグナルとエピジェネティクス機構の相互作用に焦点を当てて研究を進める。また、遺伝子改変マウス等を用いて、LSD1の骨格筋代謝転換における役割を検討する。

LSD1及び2は補酵素としてFADを要する。次年度は、核内におけるFAD合成とエピゲノム制御を結ぶ分子機構を解明する目的で、FAD合成酵素であるRFKの結合タンパク質の同定をプロテオミクス解析により試みる。これにより、FAD合成とLSD1及び2機能の直接的関係が解明できると共に、新たなFAD依存性エピゲノム制御機構の発見にも繋がるものと期待している。

  • 研究成果

    (12件)

すべて 2015 2014 その他

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 5件) 図書 (1件) 備考 (2件)

  • [雑誌論文] Lysine demethylase LSD1 coordinates glycolytic and mitochondrial metabolism in hepatocellular carcinoma cells2015

    • 著者名/発表者名
      Akihisa Sakamoto, Shinjiro Hino, Katsuya Nagaoka, Kotaro Anan, Ryuta Takase, Haruka Matsumori, Hidenori Ojima, Yae Kanai, Kazunori Arita and Mitsuyoshi Nakao
    • 雑誌名

      Cancer Research

      巻: 75 ページ: 1445-1456

    • DOI

      10.1158/0008-5472.CAN-14-1560

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] Lysine-specific demethylase LSD2 suppresses lipid influx and metabolism in hepatic cells2015

    • 著者名/発表者名
      Katsuya Nagaoka, Shinjiro Hino, Akihisa Sakamoto, Kotaro Anan, Ryuta Takase, Takashi Umehara, Shigeyuki Yokoyama, Yutaka Sasaki and Mitsuyoshi Nakao
    • 雑誌名

      Molecular and Cellular Biology

      巻: 35 ページ: 1068-1080

    • DOI

      10.1128/MCB.01404-14

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] Sall1 Maintains Nephron Progenitors and Nascent Nephrons by Acting as Both an Activator and a Repressor2014

    • 著者名/発表者名
      Shoichiro Kanda, Shunsuke Tanigawa, Tomoko Ohmori, Atsuhiro Taguchi, Kuniko Kudo, Yutaka Suzuki, Yuki Sato, Shinjiro Hino, Maike Sander, Alan O. Perantoni, Sumio Sugano, Mitsuyoshi Nakao, and Ryuichi Nishinakamura
    • 雑誌名

      Journal of the American Society of Nephrology

      巻: 25 ページ: 2584-2595

    • DOI

      10.1681/ASN.2013080896

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Glycolytic genes are targets of the nuclear receptor Ad4BP/SF-12014

    • 著者名/発表者名
      Takashi Baba, Hiroyuki Otake, Tetsuya Sato, Kanako Miyabayashi, Yurina Shishido, Chia-Yih Wang, Yuichi Shima, Hiroshi Kimura, Mikako Yagi, Yasuhiro Ishihara, Shinjiro Hino, Hidesato Ogawa, Mitsuyoshi Nakao, Takeshi Yamazaki, Dongchon Kang, Yasuyuki Ohkawa, Mikita Suyama, Bon-Chu Chung and Ken-Ichirou Morohashi
    • 雑誌名

      Nature Communications

      巻: 5 ページ: 3634

    • DOI

      10.1038/ncomms4634

    • 査読あり
  • [学会発表] The molecular mechanisms of metabolism-epigenome crosstalk2014

    • 著者名/発表者名
      Shinjiro Hino
    • 学会等名
      Young Scientist Meeting for Sexual Differentiation
    • 発表場所
      ハートピア熱海(静岡県熱海市)
    • 年月日
      2014-12-09 – 2014-12-10
    • 招待講演
  • [学会発表] 細胞のエネルギー戦略を担うエピジェネティクス機構2014

    • 著者名/発表者名
      日野信次朗
    • 学会等名
      第1188回ウイルス研究所セミナー
    • 発表場所
      京都大学ウイルス研究所(京都府京都市)
    • 年月日
      2014-10-17
    • 招待講演
  • [学会発表] リジンメチル化酵素LSD1によるがん代謝制御の分子機構2014

    • 著者名/発表者名
      日野信次朗、坂元顕久、中尾光善
    • 学会等名
      第87回日本生化学会大会シンポジウム「低酸素応答システムの分子機構と多様な役割」
    • 発表場所
      京都国際会館(京都府京都市)
    • 年月日
      2014-10-15 – 2014-10-18
    • 招待講演
  • [学会発表] The molecular mechanisms of metabolism-epigenome crosstalk2014

    • 著者名/発表者名
      Shinjiro Hino
    • 学会等名
      KEY Forum: From Stem Cells to Organs
    • 発表場所
      熊本市医師会館(熊本県熊本市)
    • 年月日
      2014-09-04 – 2014-09-05
    • 招待講演
  • [学会発表] 抗がん剤の新しい創薬標的、がん代謝とエピジェネティクス2014

    • 著者名/発表者名
      日野信次朗
    • 学会等名
      日経BP主催第12期バイオファイナンスギルド第9回セミナー
    • 発表場所
      バイオフロンティアパートナーズ特別会議室(東京都中央区)
    • 年月日
      2014-04-24
    • 招待講演
  • [図書] エピジェネティクスの産業応用2014

    • 著者名/発表者名
      高瀬隆太、日野信次朗、中尾光善
    • 総ページ数
      9
    • 出版者
      シーエムシー出版
  • [備考] 熊本大学発生医学研究所ホームページ

    • URL

      http://www.imeg.kumamoto-u.ac.jp

  • [備考] 熊本大学発生医学研究所 プレスリリース

    • URL

      http://www.imeg.kumamoto-u.ac.jp/topics/sakamoto2015feb.html

URL: 

公開日: 2016-05-27  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi