研究課題/領域番号 |
25430190
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 英次 京都大学, 霊長類研究所, 助教 (90623918)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ニホンザル / サルレトロウイルス4型 / 免疫抑制 |
研究概要 |
本研究では、貴重な遺伝子資源であるニホンザルを保護するための研究の一環として、種の壁を越え、致死的な病態をもたらす原因となるサルレトロウイルス4型について、免疫学的な手法を用いてその発症機序を解明することを大きな目的としている。 平成25年度は、血小板減少症非発症且つSRV-4が持続的に感染しているニホンザルを入手できたため、以下の動物実験を行った。 対象個体から、主にレトロウイルスの感染防御の主役と考えられる細胞性免疫を担うCD8+T細胞(細胞傷害性T細胞)を除去し、さらに炎症性免疫反応を抑制する合成副腎皮質ステロイドであるデキサメタゾン(Dex)を接種して宿主の免疫系を抑制することでSRV-4に対する免疫系の役割を明らかにすることを目的とした。 まずSRV-4持続感染ニホンザル2頭に抗CD8抗体を投与し、フローサイトメトリー解析でCD8+T細胞の除去を確認した後、real time PCR法により血液細胞中のSRV-4プロウイルスDNA量を測定し、SRV特異的ELISAにより抗SRV抗体価を測定したが、ウイルス量の有意な増加は見られなかった。また、RT-PCR法により血漿中のSRV-4 RNAも調べたが、常に陰性であった。次に、より広範な免疫抑制状態を誘導するため、Dexを1ヶ月間投与したが、同様にDNA量の有意な変動は見られず、血漿中のSRV-4 RNAも陰性であった。なお実験期間中、2頭とも体重の有意な減少などの臨床症状は見られず、また血小板数はほぼ正常値を示し、血小板減少症は発症しなかった。 以上のことから、非発症のSRV-4潜伏感染二ホンザルがストレス等を受けて免疫力が低下してもSRV-4の再活性化、病態発現には至らない可能性が示唆され、宿主免疫応答によるウイルス制御がSRV-4の潜伏感染状態の主たる原因ではないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、血小板減少症非発症且つSRV-4が持続的に感染しているニホンザルを入手できたため、当該予定より早く動物実験を行うことが可能となった。 ただし施設管理の都合上、サルの飼育期間が短期間に限定されたため、当初予定されていたナチュラルキラー細胞やB細胞の除去実験の前実験の代わりとなる実験を行った。一般的にレトロウイルスを制御する免疫系の主役で、且つすぐに実践可能な上、本研究の目的に差し支えないCD8+T細胞(細胞傷害性T細胞)の除去実験を実行した。さらに広範な免疫抑制を誘導するために、副腎皮質ステロイドであるデキサメタゾンを投与して二重の免疫抑制効果を調べることができた。 様々な方法で解析した結果、SRV-4ウイルス量に有意な変化が見られなかったことや血小板数の有意な減少も見られなかったという重要なデータが得られ、非発症のSRV-4潜伏感染二ホンザルがストレス等を受けて免疫力が低下してもSRV-4の再活性化、病態発現には至らない可能性が高いという重要な知見が得られた。 これは宿主側の主要な免疫系が血小板減少症の原因であるSRV-4の増殖・複製を抑制すると考えられた実験前の予想を覆す重要な結果で、発症を制御する免疫機構の解明を前進させたと考えられるので、総合的に概ね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度では、SRV-4持続感染ニホンザルが入手できたことにより、CD8+T細胞(細胞傷害性T細胞)などの宿主側の主要な免疫系の役割を調べ、この免疫細胞が血小板減少症の原因であるSRV-4の増殖・複製を抑制するとは限らないという結果が得られた。これは大変重要であるが想定外の結果であるため、発症の原因を調査するにあたって、免疫系(宿主側)だけではなく、ウイルス側の要因も調査する必要がある。 そこで今年度は、CD8+T細胞除去及び副腎皮質ステロイドであるデキサメタゾンの投与による免疫抑制実験に用いた非発症個体の血液感染細胞中のプロウイルスDNAにウイルス増殖に致命的な変異、欠損が生じている可能性がないかどうかを調べる。具体的には、血液細胞や脾臓などの組織から抽出したゲノムDNAを鋳型にして、独自に設計するSRV-4特異的プライマーを用いてSRV-4プロウイルスDNAのシークエンス解析を行う。 まず主要なウイルス構成成分をコードするenvelope、gag、polymerase遺伝子を解読し、何か有意な遺伝子の変異性がないかどうか、また各々のオープンリーディングフレームが保存されているかどうかを確認する。次に残りのlong terminal repeat(LTR)などの遺伝子配列をシークエンスしてプロウイルス全長を調査する。 さらにこのプロウイルスの複製能を調べるために、一般的にレトロウイルスが複製の際に生じる副産物である環状LTR DNAが検出されるかどうか調査を行う。また、SRV-4が潜伏する可能性が高い脾臓などの組織に転写産物があるかどうかを調べる。 一方でSRV-4持続感染ニホンザルを用いるナチュラルキラー細胞やB細胞の除去実験の前実験を行い、免疫抑制実験に備える予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度はSRV-4持続感染ニホンザルが入手できたので、少し予定を変更して本研究の目的に沿った免疫抑制実験を実行したが、その代わりB細胞の除去実験の前実験を延期して必要な経費を使用しなかったため。 平成26年度は、延期していたSRV-4持続感染ニホンザルを用いるB細胞の除去実験の前実験を本研究の予定通りに行い、免疫抑制実験に備える予定である。
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