これまで生殖腺および形態から雌であると判別したサクラマス個体の一部において、Y染色体上特異的な遺伝子マーカによって性判別すると雄個体である個体(不一致個体)が北海道の日本海側に流れ込む河川で多く出現することがこれまでの研究によって明らかになっている。平成27年度では岩手県および秋田県にてサクラマスの集団を現地でサンプリングし、表現型による性と遺伝子型による性を実験室にて調べた。約200個体を調べた結果、少なくとも本州の2個体群においては不一致個体は認められなかった。また、北海道ビシャベツ川に遡上してきた不一致個体を用いて人工授精を行い、それらの子供の遺伝子型による性判別を行った結果、遺伝子型性が雄である個体が雌個体よりも明らかに多く出現することが示された。このことから、マーカーとしている偽成長ホルモン遺伝子が常染色体上にも存在することが示唆された。そのため、リアルタイムPCR法を行い、一つの細胞に偽成長ホルモン遺伝子がいくつの場所にあるのかを調べる研究を行った。現在のところ確かな結果は得られてはいないものの、実験方法において改良を行い、遺伝子座数を数えることを試みている。さらには、表現型性と遺伝子型性が一致しない不一致個体が海洋期において成長が低下することがこれまで報告されているから、外洋での回遊履歴を明らかにするため耳石に含まれる元素(ストロンチウムおよびカルシウム)の濃度分析を行った。その結果、一致しない個体は他個体と異なった回遊を行っていないことが示された。現在、Journal of Applied Ichthyologyに投稿しておりマイナーリビジョンで査読中である。
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