研究課題/領域番号 |
25430198
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
佐藤 浩昭 独立行政法人産業技術総合研究所, 環境管理技術研究部門, 主任研究員 (70357143)
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研究分担者 |
矢口 貴志 千葉大学, 真菌医学研究センター, 准教授 (60361440)
田中 玲子 千葉大学, 真菌医学研究センター, 助教 (60143319)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 質量分析 / Aspergillus / 真菌 / リボソームタンパク質 |
研究概要 |
アスペルギルス症原因菌の一種であるAspergillus fumigatus及びその関連菌種は、抗真菌剤に対する感受性が異なるため、特に医真菌学の分野でこれらの迅速かつ正確な種レベルでの分類が求められている。そこで本研究では、質量分析法を用いて約80種類のリボソームタンパク質(RP)をバイオマーカーとした、A. fumigatus関連菌種の新しい分析法を開発する。 平成25年度は、正確な菌種同定の基準となる分子量リストの作成と検証を行った。A. fumigatusゲノム解読株のRPの翻訳アミノ酸配列や遺伝子の塩基配列の情報を公共データベースから入手し、分子量を計算した。ここで、公共データベースに登録されているRPのサブユニットタンパク質の番号に混乱が見られたため、相同性解析を行いながら酵母のRPに対して提案されている番号に付けなおした。 次に、各ゲノム解読株のリボソームタンパク質を抽出・超遠心法による簡易精製法を検討し、得られたRPを質量分析した。その結果、半数以上のリボソームタンパク質の観測質量が計算質量と一致しなかったため、他のAspergillus属真菌の配列情報との比較や、DNA配列の検証を行い、公共データベースに登録されているDNA配列のイントロン/エクソン領域が誤っていることを見出した。そこで、修正CDSの候補を挙げ、質量分析による観測質量と合致する正しい配列に修正した。さらに、遺伝子領域がアノテーションされていなかった2種類のRPのDNA配列を見出した。以上の解析により、A. fumigatusのほぼすべてのRPの発現質量を確定した。このリストをもとに、A. fumigatusの基準株のRPについて質量分析を行ってゲノム解読株のものとほぼすべて共通することを確認し、A. fumigatusの迅速同定を行うための基準質量リストを完成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画であるAspergillus fumigatusゲノム解読株のリボソームタンパク質のキャラクタリゼーションについて、①バイオインフォマティックス解析、②A. fumigatusゲノム解読株の発現タンパク質の分子量の検証、③A. fumigatus基準株のリボソームタンパク質の解析と分子量リストの作成をすべて順調に進めた。 その過程で、これまでほとんど明らかにされていなかった真菌のリボソームタンパク質遺伝子のCDS領域の検証を行い、公共データベース(NCBIやSwissProt)に登録されているタンパク質名や配列データの誤りを指摘することができた。この成果は、本研究の目的である質量分析による真菌の迅速分析のみならず、真核生物のリボソームタンパク質遺伝子の構造解析を行う分野への貢献も大きいものと考えている。また、数日以上の時間を要するリボソームタンパク質の精製工程を簡易化し、粗精製のレベルでも十分に質量分析できることを見出し、本手法の迅速化への道筋を開いた。以上の成果は、質量分析を用いた微生物の迅速分析が話題になっている質量分析の専門学会にて発表し、これまで主にバクテリアの分析に限られていた本法を真菌分析へ拡張したこと、その過程でインフォマティックス解析を組み合わせてデータ解析を行ったことに対して、参加者から高い評価を得た。 以上のことから、当初の計画通り、おおむね順調に研究が進捗しているものと自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(H26年度)は、リボソームタンパク質(RP)の分析をさらに迅速化するために、簡易な試料調製法の検討を進める。本研究で対象とする菌種は有毒株であるため、まずは無毒の真菌や、原核生物の中でも細胞膜の除去が困難である菌種をモデルとして、簡易分析法の開発を行う。 また、昨年度の成果を踏まえ、A. fumigatus関連菌種であるA. lentulus, A. udagawae, A. viridinutansの各基準株のリボソームタンパク質の分子量リストを作成する。これらの遺伝学的な類縁性は、b-tubulin遺伝子の高い相同性から推測されているため、RPの変異との相関についても検討を進める。もし、A. fumigatusと共通するRPが見つかった場合は、A. fumigatus関連菌種であることを確認するためのバイオマーカーとして、一方、各菌種に固有の分子量を持つものは、各菌種を同定するためのバイオマーカーとして用いる。 その後、本研究で開発した手法を基に、千葉大学真菌医学研究センターに系統保存されているA. fumigatus関連菌種約50株のタイピング分類を行う。これらの試料株は、分生胞子の形状や抗真菌薬剤に対する感受性が異なることが報告されているため、本法による分類結果を、各菌株の特徴と比較検証することによって、本法の分類感度や特徴あるいは限界を明確にする。以上の成果をまとめ、アスペルギルス症原因菌の迅速分析法の確立を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者が入院・手術した影響により、研究補助員の雇用が遅れ、予定していた人件費の約半額しか使用しなかった。なお、その後の研究が順調に進んだため、研究補助員の雇用の遅れは、研究の進捗には大きくは影響しなかった。また、学会発表用の経費を予定していたが、研究代表者の地元で開催した学会で発表し、かつ学会実行委員を兼ねていたため、旅費及び参加登録費が不要となった。以上の要因により、約50万円の差額が生じた。 研究を加速するために、研究補助員の雇用日数を増加する(当初60日雇用から90日雇用へ増加)。また、成果を国際学会で発表する予定であり、そのための参加登録費及び外国旅費に充てる。上記以外は、当初の予定通り執行する。
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