研究実績の概要 |
最終年度(平成27年度)は、近縁であるが抗真菌薬に対する耐性が異なるために迅速識別法の開発が求められている、Aspergillus Section Fumigatiに属する5種の真菌の識別を試みた。まず、前年度に確立した試料前処理法を用いて、各種の基準株のリボソームタンパク質(RP)の高品質なマススペクトルを観測した。さらに、千葉大学で解読されたA. lentulus, A. udagawae,およびA. viridinutansのゲノム情報を解析し、リボソームタンパク質のDNA配列をアノテーションしてRPの質量を予測し、マススペクトル解析によって発現タンパク質の正確な質量を検証した。分類の基準として用いる29種類のRPバイオマーカーの質量リストを完成させ、国内外から採取した約30株の臨床株及び環境株の質量分析によりRPのプロファイルを分析して、系統樹を作成した。その結果、系統樹は種ごとにクラスターを形成し、本法がA. fumigatus関連菌種を正確に識別できることを実証した。 本研究の遂行により、次の成果を得た。1) A. fumigatusゲノム解読株のRPのインフォマティックス解析とキャラクタリゼーションを行い、データベースに登録されているアミノ酸配列情報を全面的に修正して、A. fumigatusの迅速同定を行うための基準質量リストを完成した。2)明瞭にRPのピークが観測できる培養条件及び前処理条件を確立した。3) Aspergillus Section Fumigatiに属する5種の真菌を同定するためのRPの基準質量リストを完成させ、実際の臨床株及び環境株の分類に適用した。その結果、これまで識別が非常に困難であったAspergillus fumigatus関連菌種の迅速かつ正確な同定・識別が可能であることを実証し、本研究課題を終了した。
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