研究課題/領域番号 |
25440001
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小谷 友也 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70419852)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 卵母細胞 / 卵形成 / 翻訳 / Cyclin B1 / RNA顆粒 / トランス因子 / アクチン繊維 / 脊椎動物 |
研究実績の概要 |
本研究は、生物種を超えて保存される cyclin B1 mRNA の翻訳機構について、その分子機構と個体発生・生殖細胞形成における役割の解明を目的とする。平成26年度において、アクチン繊維のリアルタイム観察を可能とするトランスジェニック・ゼブラフィッシュを次の手順で作製し、アクチン繊維と cyclin B1 mRNA 翻訳との関係を解析した。アクチン結合蛋白質 Moesin のアクチン結合領域を GFP と RFP それぞれに融合させ、cyclin B1 遺伝子のプロモーター配列によって発現させた。GFP/RFP-Moesin 蛋白質は、卵形成初期の卵母細胞から十分に成長した卵母細胞すべてにおいて発現し、それらの卵表層のアクチン繊維を蛍光標識した。卵成熟が進行すると、卵母細胞の細胞質に形成された cyclin B1 mRNA の顆粒構造が消失し、mRNA の翻訳が開始される。アクチン繊維の脱重合化は cyclin B1 mRNA の顆粒構造を崩壊させ、かつ翻訳の開始時期を早める。一方、アクチン繊維の脱重合の阻害は cyclin B1 mRNA の顆粒構造の消失と翻訳の開始を阻害する。従って、卵成熟の進行過程では始めにアクチン繊維が脱重合し、その後に cyclin B1 mRNA の顆粒構造が消失、mRNA の翻訳が開始されると推測される。卵成熟過程におけるアクチン繊維をリアルタイムで観察した結果、1)細胞質に密に存在したアクチン繊維は cyclin B1 mRNA の凝集体構造が消失する10~20分前に部分的に脱重合する、2)卵核胞崩壊の時期にほぼすべての繊維が消失しその後5分程度で再度重合が起こる、3)卵母細胞が第二分裂中期において成熟する時期には繊維が完全に脱重合することが明らかとなった。本研究によって卵母細胞におけるアクチン繊維の動態が初めて明らかになったとともに、翻訳機構との関連が明確となった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はアクチン繊維の重合・脱重合が翻訳機構に関わることを初めて示す研究であり、平成26年度においてアクチン繊維の重合・脱重合の変化をリアルタイムで捉えることに成功したこと、その結果が推測されていた通り cyclin B1 mRNA の翻訳開始に先立って起こることを明らかにしたことは非常に重要な進展である。平成25年度から引き続き、BACを用いた翻訳の可視化法の改良と変異体の回復実験を行っているが、昨年度に作製したBACコンストラクトでは目的のトランスジェニック・ゼブラフィッシュを得ることが出来なかった。平成26年度においてさらにBACコンストラストの改良を行い、mCherry の蛍光によるトランスジェニック・ゼブラフィッシュのスクリーニングを可能にした。BACトランスジェニック・ゼブラフィッシュの作製が遅れていることから、標記の評価となった。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究において、翻訳を可視化する方法の改良は非常に重要な課題である。今後、平成26年度において作製したBACコンストラクトを持つトランスジェニック・ゼブラフィッシュをスクリーニングし、卵成熟過程における cyclin B1 mRNA の翻訳を明瞭に捉える。さらに、cyclin B1 mRNA 自身を蛍光標識し、アクチン繊維の脱重合、RNA 顆粒の崩壊および mRNA の翻訳を一つの卵母細胞において同時に観察することを目指す。さらに、cyclin B1 mRNA にトランスに結合しその翻訳に関わると考えられる Pumilio1 蛋白質の動態とその役割を詳細に解析する。これらの解析により、時期特異的な翻訳がどのように実現されるのか、その実体を解明する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度において使用する試薬の一部に前年度からの在庫が存在し、新たな購入に遅れがあったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成27年度の研究実施に必要な試薬を購入する。
|