研究課題/領域番号 |
25440009
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
秋山 昌広 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 准教授 (80273837)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | DNA複製 / DNA複製フォーク / 分子マシナリー / レプリソーム / DNA損傷応答 / SOS応答 / チェックポイント / DNAコーミング |
研究概要 |
(1) 大腸菌の複製フォークの速度測定:大腸菌では複製フォークの速度を正確に測ることが困難なため、DNA損傷応答(SOS応答)は複製フォークの速度調節の観点からこれまで研究できなかった。そこで、準備段階で、複製フォークの速度を極めて正確に測定できるeCOMB細胞を作成して新しい実験法 (eCOMB法)を開発した。本研究では、SOS応答時の複製フォークの解析で必要となる正常細胞の複製フォークの動態を解明して、その結果と新しい発見を国際英文雑誌に発表した。 (2) SOS応答時に複製フォーク進行のスローダウンに働く遺伝子 SOS応答時に発現上昇する遺伝子群の欠損変異を解析して、dinBとrecA遺伝子が複製フォーク進行のスローダウンに独立に関与することを見出した。 (2-1) dinB による複製フォーク進行のスローダウン活性を抑制する遺伝子の同定:dinBにコードされたDNAポリメラーゼ IVはDNA複製を阻害する活性を持つにも拘わらず、損傷応答していない通常の細胞にも存在する。過去の研究から、dinB遺伝子によるDNA複製阻害は、その活性の抑制に働く遺伝子により通常の細胞において制御されていると示唆されている。本研究では、dinBの抑制に働く遺伝子の候補を研究計画に沿って解析した。しかし、これらの中に、dinBの制御遺伝子は含まれていなかった。 (2-2) dinBとrecAによる複製フォーク進行のスローダウン活性の解析:dinBとrecA遺伝子をSOS応答時と同じレベルに過剰発現する実験系を作成した。過剰発現は、プラスミドにクローン化したそれぞれ遺伝子に変異を導入して達成された。これらのプラスミドを損傷応答していない細胞に導入して、DNA複製フォークの速度を新しい実験法 (eCOMB法)で測定した。その結果、dinBとrecAのいづれのプラスミドでも複製フォークの速度は減速した。この結果から、SOS応答時のdinBとrecA遺伝子の発現上昇だけが、複製フォーク進行のスローダウンに必要であると結論できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究では、(1) eCOMB法により大腸菌の複製フォーク速度を測定して、複製マシナリーの動態について信頼性の高いデータを得ること、(2) dinBによる複製フォーク進行のスローダウン活性を抑制する遺伝子の同定、(3) dinBおよびrecAを単独で過剰発現した細胞の複製フォーク速度の解析を目指した。これまでに通常の細胞での複製フォークの詳細な動態は明らかでなく、それを(1)でeCOMB法により解明することは、(2)や(3)でSOS応答時の複製フォークの動態を解析する上で必要である。 本研究の鍵となるeCOMB法については、正常な大腸菌での複製フォークの速度測定における有用性と信頼性を体系的にまとめて国内学会および国際英文雑誌で発表できた。また、この方法で大腸菌細胞内での複製フォークの動態や複製マシナリーの駆動力を初めて明らかにした。SOS応答時に複製フォーク進行のスローダウンに働くdinBとrecA遺伝子の解析では、dinBまたはrecA遺伝子の発現上昇だけで複製フォーク進行をスローダウンできることをeCOMB法で明らかにできた。この結果により、SOS応答時における複製フォーク進行のスローダウン、および、その遅延に働く遺伝子の同定についての研究を総括して学会や論文で発表できる目処も立ちつつある。しかし、dinB による複製フォーク進行のスローダウン活性を抑制する遺伝子を同定できなかった。これらの理由から、平成25年度の実験計画は概ね達成されたので、本研究は概ね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) dinBによる複製フォーク進行のスローダウン機構: 平成25年度の研究では、dinBのDNA複製阻害活性を制御する遺伝子を見出せなかった。そのため、実験計画通りに、DNAポリメラーゼIIIによる試験管内のDNA合成系に、dinB遺伝子のコードするDNAポリメラーゼIVと抑制遺伝子の産物を加えてdinBの制御機構を解析することはできない。そこで、様々な変異型のdinB遺伝子を本研究で作成したプラスミド発現系で発現させて、eCOMB法でDNA複製の速度を測定してDNAポリメラーゼIVのどのような活性が複製フォーク進行のスローダウンに必要かを遺伝学的に解析する。その結果を、生化学的な解析から明らかにされているDNAポリメラーゼIIIのDNA合成阻害に必要なDNAポリメラーゼIVの機能と比較検討して、細胞中でのdinBによる複製フォーク進行のスローダウン機構を解明する。 (2) recAによる複製フォーク進行のスローダウン機構: RecAには様々な変異遺伝子が単離されており、それらが細胞中での多様なRecA機能の理解に役立ってきた。RecAのどのような機能が複製フォーク進行のスローダウンと関係しているかを、既知の様々なrecA変異遺伝子をeCOMB細胞に導入して、eCOMB法で複製フォークの速度を測って、複製フォーク進行のスローダウンに寄与するrecAの機能を遺伝学的に検討する。 試験管内で再構成した複製フォークの実験系に精製したRecAを加えて、複製フォークでのDNA合成が阻害されるかを調べる。もし、RecAタンパク質による複製フォークの阻害を試験管内で検出できれば、RecAが複製装置のどの酵素に作用して複製フォークの進行をスローダウンするかを調べる。さらに、RecAタンパク質のどのような機能が複製フォーク進行のスローダウンと関係しているかを、野生型RecAタンパク質とRecA変異タンパク質を比較して解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
一部の実験計画(dinB による複製フォーク進行のスローダウン活性を抑制する遺伝子の同定)が予定通りに進行しなかったため、その解析に予定していた経費を平成26年度の研究に使用する。 dinB による複製フォーク進行のスローダウン機構の遺伝学的な解析を新たに計画した。平成26年度に繰り越した経費は、この研究計画を遂行するための消耗品を購入するために主に物品費として使用する。
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