CRISPR-Casシステムは細菌特有の獲得免疫システムで、ウイルス(ファージ)由来のDNAやRNAなど、細胞外から侵入してくる核酸を分解する。本システムはCRISPRと呼ばれる特徴的な塩基配列を持つDNA領域とCRISPRの近傍にコードされているタンパク質群から構成されている。本システムの作用機構を解明することは、獲得免疫システムの原型やその進化を考察するために重要である。本研究はゲノムが比較的小さいにも関わらず比較的多種類のCRISPR-Casシステムを持つThermus thermophilus株をモデル生物として用い、1つの細胞におけるCRISPR-Casシステムを体系的に理解することを目的としている。今年度は、本菌株のCRISPR-Casシステムを構成しているCmr、Csm両複合体、および、CRISPRの近傍にコードされている機能未知タンパク質群のX線結晶構造解析を行うことを目的として、これらのタンパク質の発現・調製を試みた。その結果、Cmr複合体を構成している6種類のタンパク質サブユニットのうちの4種類を大腸菌無細胞タンパク質合成法で同時に発現させることによってCmrサブ複合体を作製することができた。このサブ複合体に、大腸菌で発現させた2種類のタンパク質サブユニット、および、34~46塩基のRNAを混合することによって、Cmr複合体を作製することができた。Csm複合体を構成している5種類のタンパク質サブユニットは、いずれも大腸菌あるいは大腸菌無細胞タンパク質合成法で発現した。しかし、それらのうちの1種類は何れの発現系においても不溶性であった。4種類の機能未知タンパク質:TTHB159、-158、-157、-156のうち、TTHB156以外のものは大腸菌あるいは大腸菌無細胞タンパク質合成法で発現した。しかし、TTHB158タンパク質は不溶性であった。
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