研究実績の概要 |
インフルエンザウィルス(IV)は、表面にあるスパイクタンパク質のうち、ヘマグルチニン(HA)を介して宿主細胞表面上の糖鎖を認識し、この結合が引き金となって宿主細胞内に取り込まれる。HAの認識する糖鎖は、シアル酸(SA)であるが、鳥インフルエンザウィルス(トリIV)由来のHAはα2,3-SAに、ヒトIV由来のHAは主にα2,6-SAに結合すると言われている。トリIVのうち、カモIVとニワトリIVは、いずれのHAも非還元末端側のα2,3-SAに結合するが、その詳細な糖結合特異性を調べると、SAよりも内側の糖鎖構造の違いにより、親和性が異なるという報告がある。しかし、これらの鳥類が実際にどのような構造の糖鎖を発現しているのかは不明である。そこで本研究では、鳥類組織から糖鎖構造を解析する手法の確立を試みた。 ニワトリ組織由来の糖鎖を、2-アミノピリジンにより蛍光標識しHPLCにより精製した。本年度は、この糖鎖が持つシアル酸の結合様式(α2,3-SAまたはα2,6-SA)を明らかにするために、以下の3つの方法を行った。(1)HPLCカラムにおける溶出位置の違いから求める方法。(2)α2,3-SA特異的にシアル酸を切り出すシアリダーゼを用いた方法。(3)化学的にシアル酸をエステル化またはラクトン化することで判別する方法。このうち、(1)は、既に標準品を用いて相対的な溶出位置が明らかになっている場合には、簡便で有効である。(2)は、特異性の高いα2,3-シアリダーゼが市販されているが、高価であるため完全消化に時間を要する。(3)は、いくつかのエステル化剤を試したところ、シアル酸の結合様式特異的にラクトン化(α2,3-SA)またはエステル化(α2,6-SA)反応を示す試薬が見つかった。この生成物はLC-MSで迅速に検出することが可能である。
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