研究課題/領域番号 |
25440015
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
野口 恵一 東京農工大学, 学術研究支援総合センター, 准教授 (00251588)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / ナノ構造体 / タンパク質シェル構造体 / ウィルス様粒子 / 結晶構造 / X線回折 / 透過電子顕微鏡 / 認識配列 |
研究実績の概要 |
エンカプスリン は,分子量 30-40 kDa の単一のタンパク質サブユニットが自己集合することにより形成される直径 20-55 nm の中空の球状ナノ構造体である.特定の酵素を内包することにより,効率的な反応場や細胞にとって毒性のある基質や生産物を隔離する場を提供する細胞内微小区画であると考えられており,構造体のサイズ,安定性,内包する酵素を制御することが可能となれば,マイクロリアクターやドラッグデリバリーキャリアーとしての活用が期待される.本研究では,エンカプスリンへの変異導入による構造体の形状,安定性,及び内包酵素の選択性などに与える影響について検討を行い,構造形成や酵素取込機構を明らかにすることを目的として研究を進めている. 平成25年度の研究結果をもとに結晶化条件の探索を進めた結果,X線回折測定に適した外形と大きさの結晶が成長する2種類の条件を得ることに成功した.得られた2種の結晶について,高エネルギー加速器研究機構(茨城県つくば市)の放射光施設フォトンファクトリーに設置されたタンパク結晶用のビームラインPF BL-1A, BL-17A, PF-AR NW12Aを用いてX線回折実験を実施したところ,一方の結晶から分解能3.7Åの回折データを収集することができた.得られたデータをもとに,これまでに構造解析が行われている唯一のエンカプスリンであるThermotoga maritima由来エンカプスリンのサブユニット構造をプローブに用いて分子置換法による構造解析を行った結果,ナノサイズの球状構造体の初期構造モデルを得ることに成功した.初期構造のR因子は0.40程度であり,Thermotoga maritima由来エンカプスリンのサブユニットとはポリペプチド鎖のフォールディングが異なる部分も見つかったことから,現在,モデルの改良を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の段階の結晶化条件により得た結晶を用いて収集したX線回折データの分解能はX線結晶構造解析に十分なものではなかったが,結晶成長条件の最適化を進めることで,当初の予定通り平成26年度中に構造解析可能なデータの収集を達成できた.さらに,分子置換法による位相決定により初期構造も得られたことから,X線回折法による構造解析はほぼ予定通りに進行していると考えられる. 認識配列と予想された部位の付加によるエンカプスリンへのタンパク質の内包の可否を検証するために,平成26年度はタンパク質分解酵素を用いた消化実験を行った.推定認識配列を付加した緑色蛍光タンパク質やルシフェラーゼをHisタグを付加したエンカプスリンと共発現後,Hisタグを用いたアフィニティー精製物に対してトリプシン消化を行ったところ,緑色蛍光タンパク質やルシフェラーゼはほとんど分解されていなかった.他方,エンカプスリンと共発現させなかった緑色蛍光タンパク質やルシフェラーゼはトリプシン消化されたことから,緑色蛍光タンパク質やルシフェラーゼはエンカプスリンの内部空洞に内包されていることを裏付けすることができた.したがって,内包タンパク取り込み機構解析に関しても研究は順調に進んでいると考えられる. さらに,エンカプスリンの熱安定性を動的光散乱法により評価したところ,常温菌由来のタンパク質であるが,35℃~50℃の温度範囲で粒径27~29 nm程度のナノ構造体を安定に形成可能なことが明らかとなった.また,電子顕微鏡観察により,pH 変化に対する粒子の安定性についても検討を進めていることから,エンカプスリンの応用に必要な基礎物性データ収集も順調に進行している. 以上より,研究全体として,概ね計画通りに進行していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
X線回折データについては,より高分解能なデータ収集を目標に平成27年度も高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリーにて回折実験を継続する.ビームサイズの細いマイクロビームラインでの測定時間を確保するために,平成26年度に新たな実験課題の申請を行い採択された.ここ数年の放射光施設の予算削減等の影響などで,放射光共同利用実験のビームタイム確保は難しくなりつつあるが,今年度必要な最低限のビームタイムは確保できたと考えている. これまで研究対象としていきたRhodococcus. erythropolis由来エンカプスリンに加え,平成27年度から新たにPyrococcus furiosus,および,Sulfolobus tokodaii由来エンカプスリンについても発現系を構築を開始する.可能であれば8月までに精製条件を確立し,透過電子顕微鏡によるナノ構造体の粒子径の評価,動的光散乱による安定性の評価等の基礎物性データを収集する.また,Rhodococcus. erythropolis由来エンカプスリンに関する研究で確立した手法を用いて,エンカプスリンへのタンパク質の取り込み機構解析に関しても研究を進める予定である.
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