研究実績の概要 |
ウシ膵トリプシノーゲン(BPTG)のトリプシン(BPT)による活性化反応におけるメチルα-GalNAcの抑制効果から、その分子機構と生物学的機能を研究した。 1.BPTGと糖複合体の結晶解析から示唆された3か所の候補部位をそれぞれ、ヒトトリプシノーゲン(HPTG)上でアミノ酸置換した変異型recHPTGを無細胞発現系により調製した。各変異体酵素について、チモーゲン顆粒内のpH 5.5と十二指腸内のpH 7.5の条件下で、種々の糖-ビオチニルポリマープローブとの結合性を解析し,糖の種類およびpHに依存して、各候補部位がそれぞれ糖結合活性に関与することを見出した。 2.細胞内におけるチモーゲン顆粒へのプロ酵素選別送達と分泌過程への糖結合性の関与を調べるため、HEK293細胞に野生型または変異体recHPTG発現ベクターを導入し発現させた。その結果いずれも培地へ定常的に微量分泌され、構成性分泌の可能性が考えられた。調節性顆粒分泌による影響を調べるには膵臓由来細胞を使用する必要性が示唆された。分泌顆粒からBPTGに対する糖タンパク質リガンドを精製したところ、顆粒膜画分・内容物画分から最多量成分のα-アミラーゼのみ同定され、微量成分の同定は困難であった。 3.単離したブタ膵外分泌顆粒がトリプシンにより分解される過程を510 nmにおける濁度で追跡した結果、特定の糖質共存による分解遅延効果が認められ、特異糖が膵外分泌顆粒のトリプシンによる分解抵抗性を高めることが示された。すなわち糖特異的相互作用が膵炎抑制に寄与する可能性が考えられる。 分子上糖結合部位の同定、ならびに酵素がもつ糖認識により、分泌顆粒のトリプシン抵抗性が増強する効果を検出することができた。膵外分泌顆粒内での酵素間の糖鎖を介する相互作用が示唆された。実験系のさらなる検討と糖結合性を欠失する変異体の活用により、外分泌過程を駆動する糖鎖認識の重要性を解明できると期待された。
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