研究課題
本課題は BPTI蛋白質内部のフェニルアラニン、チロシン残基側鎖芳香環の反転における活性化体積を見積もる事を主目的とする。前年度までにBPTI中に含まれ NMR 時間分解能と比べて反転速度が遅く芳香環回転軸に対して対称な位置にある1位と2位の水素、あるいは炭素信号が常温、常圧において分離観測される Tyr23, Tyr35, Phe45の3残基の芳香環について、反転に伴う活性化体積を見積もる事を達成した。一方で比較的反転速度が速くNMRの反転速度解析が難しい他の芳香環残基への展開が出来ない状況であった。最終年度は、この測定法の限界に挑むため、低温高圧条件下でのNMR解析法の開発に取り組んだ。900 MHz 高磁場マシンにおいて、DEADALUS 社製の高圧セルを用いて2500気圧にて SAIL アミノ酸により標識された BPTI 試料の測定を実施した。同加圧条件下においては、水の凝固点が―20度ほど低下するため、蛋白質の揺らぎを大きく抑える事が出来る。この結果、BPTI 試料においては、同蛋白質に含まれる8残基の Phe, Tyr 側鎖芳香環のデルタ、あるいはイプシロン位の信号の線形が変化しその線形に基づく解析、あるいは交換実験が可能な程度となってきた。この成果は、従来解析対象がごく少数の蛋白質に含まれる Phe, Tyr 側鎖芳香環に限定されず幅広い蛋白質に解析対象を拡張する事が可能となる事を示す重要な成果となる。即ち、SAIL 法による芳香環の反転速度の解析により適用可能な蛋白質の分子量限界を大きく拡張するのに加えて、低温高圧実験を組み合わさる事で従来検出手段がなかった蛋白質の大きな構造揺らぎを捉える事が可能となる事が期待される。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
PLoS One
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