プロトン輸送は光合成や電子伝達、物質輸送などに関与する膜タンパク質に広くみられる現象であり、生命活動のなかで最も重要な素過程のひとつである。ところが、これらの膜タンパク質のプロトンや水素原子の位置情報は全く実験的に決定されていないこともあり、プロトン輸送現象の本質はいまだ議論の的である。そこで、代表的なプロトン輸送タンパク質であるバクテリオロドプシンについて高分解能X線結晶構造解析を実施し、タンパク質中の全水素原子の位置情報だけでなく、分極度などの精度の高い構造情報を実験的に決定して、プロトン輸送メカニズムを解明することが本研究の目的である。前年度までに大型(最長辺0.3㎜以上)の結晶の作製と1.1 A分解能の回折斑点の確認、1.3 A分解能の回折データセットの収集に成功していた。本年度は、大型結晶を多数作製し、測定温度や露光時間、照射線量などの実験条件の最適化を進めることによって、1.2 A分解能のX線損傷のないX線回折データセットを収集することに成功した。これは、これまでに報告されているバクテリオロドプシンのX線回折データの中で最も分解能が高いものである。この回折データについて解析と構造精密化をおこなったところ、個々の非水素原子を分離して観察することができた。レチナールや機能性残基における結合次数やマルチコンフォメーションに関する情報を得ることができた。また、一部の水素原子に対応する電子密度も確認することができた。
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