研究課題
多細胞生物では,1つの受精卵や幹細胞などの未分化細胞が“非対称に”細胞分裂を繰り返すことで,生じた娘細胞は異なる運命を辿り,胚発生や器官形成など経て,調和のとれた多細胞集団としての個体を生み出す.そのため,非対称分裂,分化後の娘細胞の細胞運命の調律は全ての多細胞生物において極めて重要である.特に植物細胞は細胞壁を有しており、細胞が移動できないため、細胞分裂・分化の運命は厳密に制御されている。本研究では植物の根の分化過程において,幹細胞性の維持,娘細胞の非対称分裂や運命決定において中心的な役割を担うGRASファミリータンパク質に属するSCR, SHRの構造生物学的研究によって、原子レベルで形態形成を司る未知の制御機構を明らかにすることを目的としている。昨年度までにSCR, SHR複合体の立体構造決定を行った。本年度はさらにZnフィンガー型転写因子MGPまたはJKDとの複合体について結晶化を行った。得られた結晶を用いて放射光施設SPring-8でのX線回折実験を行った。昨年度の研究では結晶中の転写因子の電子密度を観測することができなかったが、種々のコンストラクトを用いたスクリーニングの結果、1つの組み合わせで良好なデータを取得することができ、収集した回折データを解析することで複合体の立体構造決定に成功した。この結果を受けて立体構造情報をもとに機能解析実験を進めた。変異体を作成して、生化学実験から複合体形成に必要な残基を同定した。また、JKD, MGPのDNA結合について生物物理学的手法によって定量的な解析を行った。立体構造情報からの機能推定を現在進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度で、本研究の胆となる2つの構造解析を完了した。これにより、構造情報を基にした生化学的、生物物理学的手法をによって機能解析を進めており、次年度の早い段階で成果をまとめて、学術誌への成果発表が見込める状態となった。また、当初計画時より当該研究分野の進展しており、研究を新たに発展させることが可能となってきた。以上の点を考慮すると、当初の計画以上に進展していると考えられる。
現在の研究成果をまとめて、学術誌で発表することを最優先に進める。また、新たにGRASドメインに結合することが示唆された分子についても、生化学実験や構造解析実験を進める。
立体構造を決定した後、立体構造既知のタンパク質との立体構造相動性検索を行ったところ、GRASドメインが予想外の機能を有している可能性が示唆されたため、そちらを優先して研究を行った結果、当初予算と一致せず次年度使用額が生じた。
研究の進捗に伴い、新たにGRASドメインに結合することが示唆された分子について、生化学実験や構造解析実験を進める。そのための生化学試薬や結晶化試薬に使用する。
すべて 2014 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 備考 (1件)
Nature Structural & Molecular Biology
巻: 21 ページ: 803-809
10.1038/nsmb.2874
http://bsw3.naist.jp/hako/