細胞壁を持つ植物の細胞は移動することができないため、細胞の非対称分裂と分化による細胞運命は密接な関係のもと、厳密に制御されている。申請者はこれまでに根端分裂組織の形態形成(パターン形成)における転写制御の重要な因子GRASファミリータンパク質SCR、SHRの立体構造解析を行い、根の形態形成における転写制御機構の糸口をつかむことに成功した。構造解析の結果、GRASドメインはメチル基転移酵素と類似した構造を持っているが、全く異なる機能をもつことが明らかとなった。SHRとSCRは1:1で結合して複合体を形成していた。また、SHR-SCRと転写因子JKDの三者複合体の構造解析にも成功した。その結果、SHRの凹んだ溝にJKDがはまり込んでおり、JKDの特徴的なアミノ酸の配列がSHRによって識別されていることが明らかとなった。この識別されるアミノ酸の配列を「SHR結合モチーフ」と命名した。JKDはBIRDファミリーと呼ばれる転写因子群の1つで、シロイヌナズナでは16種存在するBIRDタンパク質のうち13種が「SHR結合モチーフ」をもっており、SHR-SCR複合体と結合することがわかった。一方で、JKDとDNAの相互作用領域についても詳細に解析して、JKD-SHR-SCR三者複合体の状態でDNAと相互作用できることを明らかにした。以上の結果から、これらの相互作用を通してSHR-SCR複合体が,複数の転写因子からなるネットワークを活性化することで、根に特有な内部構造を形成するために必要な多くのタンパク質をつくるという分子メカニズムが解明された。以上の研究成果を英科学誌 Nature の植物専門オンライン姉妹誌Nature Plantsにて発表した。
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