研究課題/領域番号 |
25440030
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
丹羽 一 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任助教 (30610266)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 結晶構造解析 / 蛋白質 / 高速原子間力顕微鏡 |
研究概要 |
ペルオキシソーム膜蛋白質のペルオキシソームへの移送に必須の役割を持つシャペロン蛋白質Pex19pの結晶構造解析を中心とした構造生物学的アプローチで、膜蛋白質の移送メカニズムの解明を目指している。そのために、Pex19p全長をターゲットとした結晶化と平行して、機能領域毎の部分構造を個別に解析する方法を採用している。Pex19pのN末領域はプロテアーゼ感受性で、配列からも本来単独では決まった構造を取らない天然変性蛋白質の一種ではないかと推測しているが、この領域は、ペルオキシソーム膜蛋白質輸送に必須のPex3pだけでなく、マトリックス蛋白質輸送に関わるPex14pとも相互作用することがわかっており、PMP同様、これらパートナー蛋白質と安定な複合体を形成させれば、Pex19p-N末領域も一定の構造を取り、結晶化を有利に進められると考えられる。現在までにゲル濾過で安定したPex19-Pex3p複合体が精製できており、結晶化と同時に、高速原子間力顕微鏡(AFM)解析を熊本大学発生医学研究所との共同研究として行っている。またPex19p-N末領域単独、N末領域とPex14pの細胞質領域との安定な複合体の結晶化を進めている。またミトコンドリアやペルオキシソームといったオルガネラを細胞当たり1つだけ持ち、強酸性環境、中程度の高温で生育するCyanidioschyzon merolae(通称シゾン)のPex19pの結晶化も行っている。シゾンPex19pは精製の段階で高温(80度)に晒しても安定で、大腸菌発現系からコンタミ蛋白質を効率よく除去出来、かつこの熱安定性は結晶化により有利であると期待出来る。Pex3p、Pex14pのシゾンホモログのクローニング、発現系の構築も進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Pex19p全長の結晶化プレートから得られた結晶の回折実験を行い、データ解析の結果、構造解析に成功したが、構造を解いてみて、発現系である大腸菌由来のコンタミ蛋白質であることが判明した。10kDに満たないRNA結合蛋白質で、蛋白質量が極微量だったこともあり、SDS-PAGEでもコンタミ蛋白質を見つけることが出来なかった。精製方法を一新することで、同じ条件でもコンタミ結晶が出ることがなくなり、製精度向上に繋がった。こうした問題を回避する別のアプローチとして、精製時に熱処理が可能なシゾンPex19pの発現系を構築、結晶化が進行中である。 高速AFM解析では、Pex19p単独で、フレキシブルに動いている領域と、報告されている結晶構造に対応する大きさの球形の安定なドメインからなると考えられる顕微鏡像が得られている。可溶性のPex3p細胞質領域単独の観察では、結晶構造と同程度の大きさを持つ、均一な構造体が観察出来た。両者の複合体では非常に多様な形が見られ、複合体が不安定かしているのか、本来的にフレキシブルで多様な相互作用であるのかはまだ決定的でない。両蛋白質を1本のポリペプチド鎖としてタンデムに発現精製した安定複合体(ゲル濾過でintact複合体と同じ挙動を示すことは確認済み)でも多様な構造が見られる。相互作用部位にシステインを導入することでS=S結合による、より自然な安定複合体の精製も進行中である。 Pex19pのN末がペルオキシソームマトリックス蛋白質輸送に必須のPex14pと相互作用することがわかっており、本来的に単独では構造を取らないと考えられるPex19p-N末領域とPex14p細胞質領域との安定な複合体がゲル濾過で得らているが、これは結晶構造解析の非常に有望な候補である。
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今後の研究の推進方策 |
Pex19p(N末領域)とPex14p細胞質領域の複合体が結晶に有望であると考えている。これまでPex19p-ペプチドとPex14p(20-76aa)の共結晶構造が報告されており、それぞれの領域を伸ばす形で、安定な複合体が取れ、かつ機能的に必要充分な領域をカバーできる領域を特定し、結晶化を行う。現在、Pex19pは構造が確定していないN末領域全体とPex14p(1-106aa)の複合体が非常に安定で、界面活性剤も必要とせず精製でき、結晶化を行っている。これまで、Pex14pの機能を完全に相補する領域としては1-260aaまでとされているが、膜貫通へリックス、自己複合体形成に必要なコイルドコイル領域と言った機能領域や予測される二次構造から、C末部分を更に短く出来ると考えている。Pex19pがPMPとしてでなく、マトリックス蛋白質輸送必須因子としてのPex14pと結合する理由は不明で、相互作用領域全体の構造解析が出来れば、PMPとは違う認識でPex14pを認識している機構が分子レベルで解析出来、その生物学的意味の解明の端緒となると期待出来る。 熱安定性の高いシゾン由来のPex19pは結晶化に有望であると考えている。シゾン由来のPex3p、Pex14pのクローニング、大腸菌大量発現系の構築の後に、複合体形成能を調べる。シゾンはマトリックス蛋白質輸送系のうち、PTS2経路を持たない、より単純なシステムでペルオキシソームを維持していることから、Pex14pとPex19pとの相互作用がPTS経路に依存しない普遍的なものであるか調べていく計画である。
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