研究課題
基盤研究(C)
本年度は,NMR自動解析プログラムCYANAに実装されているFLYAアルゴリズムを,より難易度の高いデータに適用可能にするための改良を行った.これにより,固体NMRのデータ(J. Biomol. NMR 56, 243-254(2013)), NOESYスペクトルのみしか利用できないデータ(J. Biomol. NMR 57, 193-204 (2013)),およびRNA試料 (Nucl. Acids Res. 41, e172 (2013))といった解析困難なデータに対しても,自動構造解析可能なことを示した.これらの成果は,本課題の目標の1つであるin-cell NMRによる立体構造決定にも,本手法が十分適用可能であることを強く示唆している.また,CYANAの立体構造を高速化させるため,プログラムコードの一部のGPGPU(General Purpose Computation on Graphics Processing Unit)化にも成功した.In-cell NMR計測では,アフリカツメガエルの卵母細胞中でのペプチジルプロリン異性化酵素 Pin1のシグナル観測に成功した.この解析から,細胞内での分子混雑環境下では,活性化Pin1は,基質と認識する前に細胞内蛋白質と非特異的に複合体を形成していることが分かった(J. Am. Chem. Soc. 135, 13796-13803 (2013)).また,Ficoll 70を分子クラウディング剤として用いた人工環境下では,ここで示したPin1の細胞内動態を再現することができないことも明らかにした.我々の結果は,「生理的条件下に近い環境下で表面電荷を持たない球状蛋白質の多くは,細胞内の分子混雑状況下では,他の蛋白質分子と巨大分子複合体となって存在する」というMcConkeyの仮説を裏付けるものとなった.
2: おおむね順調に進展している
本課題では,我々が開発を進めているCYANAプログラムをin-cell NMRデータをはじめとする解析難易度の高い試料にも適用可能な堅牢なシステムに改良することを達成目標の1つとして提案している.この点において,本年度は本システムを固体NMRデータ,NOESYスペクトルのみを用いたデータ,RNA試料の解析等に最適化し,複数の成果を報告しており,さらにin-cell NMRデータの解析にもすでに着手していることから,開発は順調に進んでいると言える.また,NMR計測の面では,アフリカツメガエルの卵母細胞を用いたin-cell NMR測定で,Pin1蛋白質のシグナル観測に成功し,細胞内動態の一部を明らかにするなど,生物学的応用研究でも成果を挙げた.次の目標は,ここで開発したアルゴリズムと測定技術を用いて,生細胞内の蛋白質立体構造決定であるが,技術開発面と実際の試料への応用の両側面において,現在準備は滞りなく進捗しており,当初計画通りに進んでいる.
本年度,開発に着手したアルゴリズムの開発を引き続き進める.本年度で最適化した化学シフト自動構造解析アルゴリズムは,様々なin-cell NMR データにも適用させ,パラメーター等のさらなる調整を進める.NOE シグナルの解析アルゴリズムは,次年度は,実際のin-cell データを用いて性能評価を行う.また,計算時間の増大を想定し,アルゴリズムの最適化,並列化も同時に着手する.本年度は,CYANAの一部の計算部については,GPGPU化に成功したため,これをさらに他の計算部にも拡張させる.Sf9 細胞のin-cell NMR では,開発した本アルゴリズムを適用し,具体的に立体構造決定を進める.首都大のグループは,現時点で,すでに距離情報に必要なNOESY スペクトルの収得にも成功しており,次年度中には,立体構造決定は十分可能である.In-cell でのPER,PCS 等のNMRデータを,構造計算に取り込み,ヒト培養細胞内での構造決定や,蛋白質ドメイン間の運動性をこれにより解析し,in-vitro とin-cell の差異の検証など,生物学的な応用研究も開始する.
国内旅費に予算を割れ当てていたが,これが中止となったため.来年度,この旅費を共同研究者との打ち合わせに使用する.
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 12件)
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