研究課題
本年度は、CYANAプログラムをより高難度試料に対応するために、CYANAの機能の1つである自動帰属と立体構造計算の改良に注力を注いだ。また、具体的な解析対象として、アミロイド線維化する蛋白質(Schuetz et al. Angew. Chem. Int. Ed. 54, 331-335 (2015))、20kDaを超える蛋白質(Schmidt et al., J. Magn. Reson. 249, 88-93 (2014))、RNA(Kraehenbuehl et al. J. Biomol. NMR 59, 87-93 (2014))などの構造解析を行った。これらの結果はいずれも極めて良好であり、今回改良を加えた新機能が、高難度試料にも十分適用可能であることを示した。一方で、in-cell NMRスペクトルの改善を目指して、3D,4D NOESYスペクトルに対する最大エントロピー法(MaxEnt)の評価を行った(Shigemitsu et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 457, 200-205 (2015))。In-cell NMR解析には、高速なNMR測定が必須であるが、ここでは我々が開発を進めてきたMaxEntが、かなり効果的であることを再評価できた。NMR立体構造の新規計算手法も開発した。NMR構造計算では、一般的に複数の計算結果をまとめたアンサンブル構造を最終構造とし、この収束度を計算精度の一指標としている。一方で、これは構造の確度と必ずしも一致しない点がこれまで問題とされてきた。我々は、NOESYの自動帰属と立体構造計算を複数回繰り返し、計算毎の一致度をみることで、極端に構造が収束することを避けられる手法の開発に成功した(Buchner et al. Structure 23, 425-434 (2015)。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は、当初の計画以上に研究を進展させることができた。特に、繊維形成蛋白質のための新しい構造決定手法を開発し、固体NMRを用いて、アミロイドβペプチドの構造を原子分解能で決定した例は、注目すべき成果であった。アルツハイマー病の発症原因を分子レベルで理解は、疾病の予防、治療の観点で、極めて重要な課題であるにも関わらず、これに関与すると考えられているアミロイドβの線維化に関する高解像度の構造情報は、これまでほとんど明らかにされてこなかった。これは、蛋白質の繊維形成機構を詳細に解析可能な実験手法がこれまでなかったことが原因である。したがって、今回の我々の構造解析の成功は、アルツハイマー病研究に関するこれまでの状況を大きく変え、治療に効果的なさらなる生物学・医学的研究につながることが期待できる。一方で、NMR構造のアンサンブルの収束度(精度)を、構造の確度の指標として評価可能な新規手法の開発も今年度の重要な成果であった。これは、NOESYの解析と立体構造計算を複数回繰り返し、各計算におけるNOESY帰属と構造の一致度合いを測ることで最終構造を補正させる手法である。NMR構造の精度(アンサンブル中の個々のコンフォメーションがお互いにどれだけ近いか)は、NOEの校正因子のような計算のパラメーターによって、歪められてしまう可能性がある。一方で、これまでの手法では、構造の確度(真の構造にいかに近いか)は、計算過程の段階で極端に高い精度となってしまい、この収束度合いは過大評価されてきた。我々が新たに提案した手法は、NMR立体構造計算における長い間のこの課題を大きく改善した成果である。
本研究課題の最終年度では、第一に、CYANA計算により得られた構造の信頼度を様々な不完全なデータセットを用いて大規模に評価する計画である。具体的には、不完全で誤りのある化学シフト帰属、多くのNOESYクロスピークが消失したピークリスト、不完全なピーク位置やピーク強度を持つデータ、低次元NOESYデータ、より広い自動帰属の許容範囲値持つデータなどを想定している。一方で、我々は、NOESYの自動帰属と構造最適化計算を組み合わせた新たな手法を、CYANAプログラムに実装することにすでに成功しており、このアルゴリズムの詳細を専門誌に報告することも計画している。ここでは、CYANAの立体構造計算と最適化計算に採用している2面角系分子動力学計算(TAMD)に、TAMDに最適化した物理ポテンシャルを導入し、NOESY自動帰属と組み合わせることで、計算の精度を大きく改善させることに成功した。最終年度は、これをより詳細に解析、性能評価して専門誌に報告する。また、本手法を生きた真核細胞を用いたNMRデータにも適用可能な形にさらなる改良を加えることも次年度の重要な課題である。
グループ内の研究員の共同研究先での滞在費と旅費に割り当てていたが,この費用が予想より安価に済んだため.
来年度,この旅費分は共同研究者との打ち合わせ費用に割り当てる.
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (18件) (うち査読あり 18件、 謝辞記載あり 2件)
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