研究実績の概要 |
真核生物においては,鉄硫黄クラスターを含むタンパク質は,ミトコンドリアと核および細胞質では別の経路で合成される.本研究では核・細胞質で機能する同システムに関与するタンパク質群について,単体および複合体での結晶構造解析を行い,合成経路およびその主要段階の反応機構を解明することを目的とする. 今年度は昨年度に引き続き,大腸菌を用いた各タンパク質(Nar1, Nbp35, Cia1, Cfd1)の発現系の構築および最適化をすすめた.分裂酵母由来のものは,Cia1(Cfd1との融合タンパク質)については昨年はタンパク質の産生が全く見られなかったが,cold-shockプロモータによるGST融合タンパク質として発現させたところ,大部分が不溶性成分として産生されることを確認した.一方,Nar1およびNbp35については大腸菌内で形成された金属クラスターが酸素に対して非常に不安定ではあったため,嫌気条件下で精製を試みたところ,安定かつ高純度の試料が得られるようになった.一方,Cfd1をもたないとされる線虫の系では,Cia1を高収量かつ高純度に調製するができ,その結晶化にも成功し,X線結晶構造を決定することができた.最高分解能は1.50Åで,非対称単位には3つのCia1分子が含まれており,それぞれ決まった構造をとらないループ領域が異なっていた.結晶中の分子のパッキングの影響であると考えられる.これまでに,出芽酵母由来およびヒト由来のCia1の結晶構造が報告されているが,それぞれのCα原子に対するRmsd値は,1.4, 1.1Åであり,立体構造はよく似ていることが分かった.分裂酵母ではCfd1とは融合タンパク質として結合しており,線虫ではCfd1を介さずにNbp35と相互作用すると考えられるが,微妙な構造の違いがこれらの相互作用の違いを与えていることが示唆された.
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