研究課題
CLOCK-BMAL1複合体は時計シスエレメントE-boxに結合して転写リズムを生み出すことにより、時計発振の中心的な役割を担っている。一方で、E-boxとは異なる時刻に転写産物のピークを作り出す時計シスエレメントとしてD-boxが知られており、bZIP型の転写因子であるDBP(活性化分子)とE4BP4(抑制分子)により転写活性が制御されている。本年度には、D-boxを介した転写の生理的意義に迫るために、E4BP4-KOマウスを用いた解析を展開した。具体的には、この変異マウスを12時間明:12時間暗の明暗サイクルに同調させ、6時間おきにマウス肝臓を単離した。抽出したtoal RNAを超並列型シーケンサーに供してRNA-Seq解析を行い、全転写産物の発現プロファイルを正確に記述した。この結果を同時にサンプリングした野生型マウスの結果を比較することにより、E4bp4欠損によって実際に転写レベルが大きく変化している因子をリストアップした。これと並行して、DBPに対する抗体を新たに自作して定量的なChIP条件を決定した。DBPの発現量が高い夕方と発現量が低い明け方にDBPが結合しているDNA領域を濃縮し、超並列型シーケンサーを駆使したゲノムワイドな解析を展開した。こうして得られたChIP-Seqデータを詳細に解析し、実際に生体内でDBPが結合している2,725のゲノム領域を決定した。このDBP結合領域の情報もとに、R-GADEM法によってDBPが認識するDNA配列を決定した。さらに得られた結果を初年度に開発した新しいバイオインフォマティクス技術MOCCSを用いて、妥当な結果であることを評価した。さらには、初年度に解析を進めたE-boxのChIP-Seqデータとの比較解析により、E-boxとD-boxの2つのシスエレメントの相互連関を明らかにすることができた。
1: 当初の計画以上に進展している
上述したように本年度には計画した全ての実験を実施し、順調に成果を上げることができた。さらに、CLOCKをリン酸化する時計キナーゼとしてCaMKIIを同定し、SCN内の細胞間カップリングが行動リズムを制御する機構を報告した(Genes Dev, 2014a)。また、BMAL1をユビキチン化して分解に導くE3リガーゼとしてUBE3A/E6APを同定した。ヒトパピローマウイルスの感染により異常活性化するこの酵素は、BMAL1を異常分解して体内時計の振動を停止させ、癌の悪性化に寄与する可能性を提唱した(NAR, 2014)。さらに、CLOCKによるリズミックな転写制御を受ける遺伝子のなかでも、酸化ストレスに応答する転写因子Nrf2に着目し、肺の繊維化リスクの時刻依存性を見出した(Genes Dev, 2014b)。このように、当初の計画以上に多くの成果を上げることができた。
概日時計の基本特性として、自律的な「振動」を機能的に「出力」することに加えて、その振動位相を外部環境に同調するための「入力」機構が知られている。睡眠覚醒リズムなどを制御する中枢時計は光刺激により強く位相同調し、肝臓などに機能リズムを生み出す末梢時計は食事のタイミングにより強い入力を受ける。申請者は最近、JNKが光刺激により活性化して、外界の明暗情報をダイレクトにCLOCK-BMAL1複合体へと伝達するという時計入力経路を明らかにした(EMBO Rep., 2012)。また当研究室では、ニワトリ松果体を実験材料に、光刺激が転写因子E4bp4を転写誘導して時計の位相をシフトする可能性を報告した。申請者は最近、培地の酸性化がE4bp4の転写を誘導する可能性を見出し、E4BP4-KO由来の繊維芽細胞ではこの酸性化リセットが完全に阻害されることを明らかにした(未発表)。本研究では、酸性化リセットのシグナル全貌解明を目指す。また、この新規入力経路が機能している生理的な局面を同定するため、E4bp4を誘導する生理的なリガンドを探索する。
本年度に計画していた実験が想定よりも順調に進み、条件検討の繰り返しや、失敗によるやり直しなどがかなり少なく、計上していた経費に余裕が生じた。
当初の計画に追加して、最終年度にE-boxおよびD-boxからの出力経路とその生理的意義の解析を行う。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (13件) (うち招待講演 2件) 図書 (2件) 備考 (2件)
Molecular and Cellular Biology
巻: 34(10) ページ: 1776-1787
doi: 10.1128/MCB.01465-13
Genes and Development
巻: 28(6) ページ: 548-560
doi: 10.1101/gad.237081.113
Nucleic Acids Research
巻: 42(9) ページ: 5765-5775
doi: 10.1093/nar/gku225.
巻: 28(10) ページ: 1101-1110
doi: 10.1101/gad.237511.114.
http://www.biochem.s.u-tokyo.ac.jp/fukada-lab/index-j.html
http://www.u-tokyo.ac.jp/ja/utokyo-research/research-news/molecular-mechanism-behind-circadian-rhythm/