研究課題/領域番号 |
25440045
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
湊元 幹太 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (80362359)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 人工細胞モデル / 細胞情報伝達 / リポソーム / 膜タンパク質 / 分子生物工学 / バキュロウイルス / プロテオリポソーム / GUV |
研究実績の概要 |
細胞シグナル伝達経路の構成要素を脂質2分子膜ベシクル(巨大リポソーム、GUV)の膜に再構成して、少数ながら個別の要素の統合で伝達機能の発現を行おうとしている。ホルモン等の外部刺激分子の受容に始まる膜受容体経路とその下流で活性化されるエフェクター、そして、情報の流れを感知する仕組みを組み入れたシステムとなるリポソームを作製することを狙っている。本研究では、私たちが開発してきた組換えバキュロウイルスの出芽ウイルス(BV)粒子とGUVとの膜融合を用いる。昨年度までに、エフェクタータンパク質(アデニル酸シクラーゼAC)のリポソーム膜への組込みと活性確認を行った。 今年度は、(1)環状ヌクレオチド感受性イオンチャネル(CNG)組換えBVの多重感染効率と発現確認、(2)Gタンパク質共役受容体(GPCR)組換えBVの性状解析、を行った。 (1)内水相中、ACによるcAMP産生を、CNGを介した陽イオン流で検出するには4量体(3遺伝子産物)形成が必要となる。CNGA2, CNGA4, CNGB1にRFP, GFP, BFPを融合し、感染・発現を共焦点顕微鏡で解析した。単感染効率はほぼ同じで、3重感染効率は各効率を乗じた値に近しかった。即ちBVについて、全因子が揃い機能するチャネルが搭載されることは少なく、構成因子の欠けたそれも存在することを意味する。個別調製したBVを、リポソーム膜に融合しその場で会合させる経路の検討が重要となる、と示唆された。 (2)プロテオリポソーム調製の成否に重要であるため、膜タンパク質を提示するBVに関する他グループの先行研究を参考に、宿主細胞培養条件と得られるBVの性状との関係を、再度検討した。CRHR1, ADRB2等のGPCRについてリガンド結合の確認、形態観察等を行い報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度に引き続き、GUVベースの人工細胞システム構築・改良のため、GPCRモデル経路の再構成と感知システムの構築を目標に置いた。なお、GPCR経路の要素(GPCR、3量体Gタンパク質、アデニル酸シクラーゼ)の、蛍光タンパク質やタグ等を融合させた遺伝子を組込んだBV粒子は準備済みであり、GUVとの膜融合による組換えタンパク質の移行等も確認している。GUV内水相においてACによるcAMP産生を捉えるシグナル感知タンパクとしてねらいをつけた環状ヌクレオチド感受性陽イオンチャネル(CNG)の組換えBVの準備を再検討し、適当に選択したサブユニット(A2, A4, B1)へ染分けのための蛍光タグ等を融合した。組換えBV上のCNGは多量体となるため、多重感染が重要であるが、前記操作で感染の程度が調べられる。3つのサブユニットの組換えBVを、種々の組合せで昆虫細胞に感染させ調べた。その結果、単感染効率を乗じた低い効率となることが分かり、寧ろGUVへの融合による再構成には単感染BVを其々用いる方法が有効となろうと示唆された。またGPCRとしてはCRHR1、ADRB2を選んでいる。膜タンパク質提示BVに関する他グループの先行研究を参考に、リポソーム融合により適したBVを調製する条件を再検討した。感染前の宿主細胞培養条件、感染後の条件、それらと得られたBVの形態等とが関連することが、電子顕微鏡観察等から分かった。シグナル伝達系のバリエーションを増やすため、細胞外基質受容体のインテグリン(ITG)についても組換えBVの作出ならびに膜融合によるプロテオGUVの調製を進めていった。今年度は、昨年度の達成内容をさらに進展していく過程で課題点となった問題を主に2点、取り組むことになった。新しい知見であるが、当初予定していなかった点でもあり、やや進展に遅れを見たところもあった。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の今年度は、前年度までの結果を踏まえ、人工細胞システムへGPCR経路の再構成と感知システムの構築が確実となるよう、関係する方法の改良等を進める。具体的には、組換えBVとGUVの膜融合を、温和かつ確実に行えるよう、BVの性状の向上とともに、新規融合条件の検討、安定的な新規GUV形成条件の考案、にも取り組んでゆく。また、巨大リポソーム膜への取込が成功しているエフェクタータンパク質(AC)の触媒する生成物(cAMP)をCNGで捉えることに挑戦する。このことは、アンサンブルの試料に代えて、単一の巨大リポソームを対象とすることによる検出のしやすさの向上を期待するものである。多量体形成に解決すべき問題の存在が明らかとなったので、引き続き、cAMPとの結合で蛍光特性の変化する蛍光タンパク質センサーの利用も、併せて検討したい。昨年度検討できなかった、ウイルスエンベロープタンパク質GP64のC末端側(細胞質側)に、cAMPと結合し乖離する、PKAの制御サブユニットを連続させ、蛍光タグ付したPKAの触媒サブユニットをリポソーム内部に封入する案も検討対象として残す。GPCRに対するリガンドによる修飾ガラスの調製は、既にGUVへの意向が確認できているITGへのペプチド結合のアッセイとしても利用可能なため、継続して取り組む課題としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、多量体からなるチャネルの形成の問題、BVの性状の詳細な検討、などに取り組んだため、やや進展が遅れた上、昨年度から繰り越された使用額が若干あったこと、さらに下記に挙げる理由(1,2)により、次年度使用額が生じたと考えている。(1)本年度(H26年度)も、前年度よりは少ないものの、人工細胞システム構築あるいは膜タンパク質再構成という大きな目標を同様に狙っている科研費研究であって、私が分担者を務める研究が他に2件あった(課題番号23240044、25630376)ため、関連学会等が重複しそれらに参加し研究発表するための旅費を、本科研費以外から支出したケースがあった。(2)実験消耗品で、必須培地類、プラスチック製品など、見積の比較などを通してコストを可能な限り抑えようと努めたこと、などが挙げられる。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、当初の請求額と併せて研究遂行のために、適切に使用する予定である。特に次年度は最終年度であるから、研究の進捗を見極めつつ有効に支出する。研究提案時より、消費税の増税、誘導円安に起因する輸入品を含む全物品の値上がりなどがあった。繰り越し分は、そのため、細胞培養や製膜のために継続的に使用する培地類、試薬類、キット類の購入の中で、適切に支出してゆける予定である。もちろん、今後もコスト削減等による効率的かつ効果的な研究費の支出に努める。
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