研究課題
DYRK1Aは脳神経系の発生・機能に重要なキナーゼで、ダウン症候群の原因の一つである。これまでの研究でDYRK1Aの細胞内特異的結合タンパク質としてWDR68を同定した。WDR68は種間で高度にアミノ酸配列が保存されたWD40リピートタンパク質で、WDR68が細胞の生存に必須であることを明らかにしてきた。しかし、WDR68が生体内でどのような機能を持ち、どう制御されているかは不明である。昨年度までにDYRK1Aとの結合がWDR68の細胞内局在を規定していることを明らかにした。また、WDR68の細胞内結合タンパク質の質量分析による網羅的解析を行ない、分子シャペロンであるTRiC/CCTがWDR68と結合してその細胞内でのフォルディングと局在を支配する重要な因子であることを明らかにした。本年度は更にDYRK1AとWDR68との結合様式を詳細に明らかにする目的で両者の結合領域の同定を行なった。WDR68は5つのWD40リピートを持つが、コンピューターモデリングによって7つのβプロペラから成るリング構造を取ることが明らかになった。各βプロペラ構造に着目した系統的な欠失変異体WDR68とDYRK1Aとの結合を解析した結果、特定のβプロペラがDYRK1Aとの結合を担うのではなく、部位に関わらず3つ以上のβプロペラがあればWDR68がDYRK1Aと結合できることが明らかとなった。一方DYRK1Aの各種欠失変異体とWDR68との結合の解析から、DYRK1Aの中央に位置するキナーゼドメインではなくN末端領域がWDR68との結合に必要充分であること、特にアミノ酸80-120がWDR68結合領域であることが明らかになった。WDR68が極く短いアミノ酸モチーフを認識する可能性が考えられるため、現在更に結合領域を狭める事で認識モチーフを決定する実験を継続している。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載した研究の目的に沿ってWDR68の細胞内結合タンパク質の網羅的な同定を行ない、複数の結合タンパク質を見出すことができた。その中で特にTRiC/CCTとの結合とその生理的意義について詳細な解析を行ない、当初の計画では想定していなかった、分子シャペロンTRiC/CCTによるWDR68のフォルディング・細胞内局在の制御機構を明らかにできた。ここまでの解析について得られたデータをまとめて英文原著論文として発表した。WDR68の機能制御機構の一端を明らかにする成果であると共にTRiC/CCTの細胞内機能の新たな一面を解明した重要な知見であると考えている。交付申請書に記載した研究目的・計画のうち、WDR68の結合タンパク質の同定とそれによるWDR68の機能制御機構の解明についてはほぼ計画通りにおおむね順調に進展したと評価できる。またWDR68とDYRK1Aとの結合が両分子上のどのような領域で起こるかの同定を、多数の欠失変異体を用いた解析によって進めた。その結果、両分子の結合と構造との相関関係がかなり明らかになってきた。特にWDR68の結合認識アミノ酸モチーフを決定できる可能性を示唆する結果が得られたため、今後このモチーフを用いて更なる結合タンパク質を明らかにしていけると見込まれる。
現在までの研究の進展がおおむね順調であることから、交付申請書に記載した次年度の研究目的・研究計画に大きな変更を加える必要はない。今後の研究で明らかにする重点項目としてはリン酸化によるDYRK1A-WDR68複合体形成の制御機構とWDR68を介するDYRK1Aによるキナーゼシグナリングの分子機構の解明が挙げられる。一方で、WDR68がDYRK1A上のかなり狭いアミノ酸領域を認識する事を示す予備的な結果が得られたことから、今後WDR68認識モチーフを決定し、同モチーフを持つタンパク質をゲノム・タンパク質データベースをコンピューターによって解析することで抽出し、新たなWDR68結合タンパク質の同定を試みる計画である。既に初年度に行なった網羅的な質量分析解析によって得られているWDR68結合タンパク質候補と照らし合わせる事で、生理的に重要な新たなWDR68結合タンパク質を明らかにし、WDR68の細胞内機能の解明に結び付けたいと考えている。一方、初年度の研究によってWDR68とTRiC/CCTのリン酸化部位を同定したが、今年度はそのリン酸化を担うキナーゼやリン酸化による機能制御機構については詳細な解析を行なわなかった。今後はWDR68がリン酸化によって機能制御されるかどうか、またWDR68を介してキナーゼであるDYRK1Aがどのようなリン酸化シグナルを伝達するのかについて、当初の研究目的・計画に従って解析を行ないたい。最終的にリン酸化シグナル伝達におけるDYRK1A-WDR68複合体の生理的な位置づけを解明する事で、ダウン症の分子機構の一端を明らかにできるよう研究を推進する。
試薬等消耗品の購入をメーカーキャンペーン等を利用して想定以上に安価に行なう事ができたため。
円安等の理由により国外メーカーの試薬等の物品費が次年度は当初想定より高騰することが予想されるため、次年度の当初予定物品費に加えて使用する計画である。
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Cancer Letters
巻: 356 ページ: 751-761
doi:10.1016/j.canlet.2014.10.026
The Journal of Biological Chemistry
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http://www.y-miyata.lif.kyoto-u.ac.jp/index.htm