研究課題
基盤研究(C)
インテグリンα3β1はラミニンの受容体であり、α3のノックアウトマウスは腎臓、肺、皮膚において異常を示す。最近、α3ノックアウトマウスの表現系とよく似た異常を呈するヒトα3の変異が複数報告された。私は、その中でも、calf-1ドメインに存在するArg628がProに置換される変異(R628P)に着目した。このArgを含む周辺領域は、テトラスパニンCD151との結合に関与することが示唆されている。そこで、平成25年度の研究では、R628P変異体の解析を通して、α3の構造機能学的性質を明らかにすることを目的とした。α3の野生型およびR628P変異体をヒト肺癌由来のA549細胞に強制発現させた結果、R628P変異体では正常なプロセッシングが起こらないことがわかった。また、インテグリンβ1との結合は見られたが、結合しているβ1は、糖鎖が十分に付加していない未成熟型であった。さらに、細胞表面における発現量を調べた結果、R628P変異体では著しく低下していることがわかった。また、この変異体はCD151との結合能を失っており、変異体で見られる異常にこのことが寄与する可能性が考えられた。一方、作成したホモロジーモデルにおいて、Arg628はcalf-1ドメインのβシート上に存在し、これをProに置換することで、このβシート構造が乱れることが予測された。しかし、R628P変異体においては、β1との結合は保持されたままであり、しかも小胞体関連分解の促進が観察されなかったことから、この構造の乱れは限定的なものであると考えられた。以上のことから、R628P変異によりcalf-1ドメインの限局的な構造の乱れが生じ、その結果、プロセッシングや細胞表面発現の異常が起こることがわかった。さらには、α3のcalf-1ドメインがCD151との結合に寄与することが示された。
3: やや遅れている
インテグリンα3の変異体解析を通して基底膜ラミニンによる接着制御機構の解明を目指した。しかし、今回解析した変異は、細胞表面への発現異常をもたらすもので、リガンド結合後のα3の機能異常を引き起こすものではなかった。そのため、この変異体を用いて解析を行うことで、α3がどの様な分子機構によりその機能を発揮しているかを明らかにすることは困難である。一方、α3の重要な制御蛋白質であるCD151が、α3のcalf-1ドメインを介して結合することがわかった。そこで、CD151と結合できないインテグリン(例えばα2)のcalf-1ドメインと置換したα3変異体を作製することで、接着制御におけるα3とCD151の相互作用の役割を解析することが出来る。
上皮細胞は三次元培養することで、顕著な上皮極性を有するようになり、内部に空洞を持つ球状構造を形成することが知られている。今後は、この三次元培養系を用いて、基底膜ラミニンによる上皮極性制御の分子機構の解析も行い、本研究の目的達成を目指す。
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