研究課題
上皮細胞は高度に極性化しており、その細胞膜は密着結合によって、体外に面した頂端側と基底膜に接した側底側の二つの膜ドメインに分けられる。さらにゴルジ体等の細胞内小器官もその極性にしたがって配置される。この上皮極性は、生体内で上皮細胞が分泌や吸収といった機能を正しく発揮する上で重要である。上皮極性の形成には上皮細胞が基底膜と接着することが必要であるとされているが、基底膜が上皮極性を制御する分子機構については明らかとなっていない。上皮細胞を柔らかいゲル上で三次元培養すると、シストと呼ばれる特徴的な細胞塊を形成することが知られている。シストは基底膜で覆われた一層の極性化した上皮細胞シートからなる中空の構造を持つ。本研究では、非腫瘍性乳腺上皮細胞株MCF10Aが三次元培養下でシストを形成するのに対し、乳腺癌由来細胞株MCF7はシスト形成能を示さないことに着目した。私は、MCF7細胞ではラミニン結合性インテグリンの発現がMCF10A細胞と比べて著しく低いことを見出している。さらに、ラミニン結合性インテグリンであるインテグリンα6をMCF7細胞に発現させると、極性を持ったシストの形成が起こることを見つけている。そこで、基底膜による極性制御機構の解明を目指して、このα6依存的な極性形成の分子機構を明らかにしようと考えた。私はα6の細胞内領域に着目し、この大部分を欠失させたα6変異体をMCF7細胞に遺伝子導入し解析を行った。その結果、α6変異体を発現する細胞では、野生型を発現する細胞と比べ極性形成能が低いことを見出した。これらのことは、α6の細胞内領域が、ラミニンとの接着に端を発する上皮極性形成に重要な役割を持つことを示している。現在、α6の細胞内領域のどの部位が上皮極性に寄与するかを明らかにするため、異なる長さの細胞内領域をもつα6変異体を作製し、極性形成能の評価を行っている。
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